2016/12/17

アジアサクソフォンコングレス&コンクール

台湾南部の都市、嘉義市において、12/14-18の日程で、アジアサクソフォンコングレス(2016 Asian Saxophone Congress)が開催されている。Rong-Yi Liu氏が総合責任者、Shyen Lee氏(タイ、バンコクのマヒドン大サクソフォン科教授で、ロンデックスコンクールのコーディネーター)が芸術監督を務める催しで、今回が第1回の開催となる。内容としては、3年に1度開催されている世界サクソフォンコングレスと同様のもので、会期中に亘ってサクソフォン奏者やサクソフォンを学ぶ学生による様々な演奏会、レクチャー、マスタークラス、コンクールが開かれている。とても充実した催しのようだ。

独奏コンクールは、ユース、シニア、ジャズと部門が分かれており、クラシックサクソフォンのメイン部門であるシニア部門では、見事、中島諒君が優勝したそうだ。渡仏後、CRR Versaillesで研鑽を積んでいるが、相変わらずの活躍っぷり、素晴らしいことだと思う。ちなみに、本選の課題曲はChihchun Chi-sun Lee「Concerto」と、Roger Boutry「Trois regards sur Taiwan(楽譜抜粋はこちら)」という曲。特にブートリーの作品はどのようなものなのか、気になるな。ちなみに、審査員の中にWilliam Chien氏の名前があって驚いた。2012年、スコットランドで開かれたコングレスで、熱心にいろいろな所を見て回っており、何かの拍子に少しお話もして名刺もいただいた記憶がある。若い方だなあと思っていたのだが、実は年上だったのだった(笑)。

今回のコングレス、日本からも、ゲストとして平野公崇氏や相愛大学サクソフォンアンサンブルなどが参加、さらに松下洋氏を始めとする若手奏者も多く参加しているようだ。同イベントのFacebookページでは、会期中の様子が写真とともにアップされており、盛り上がりが伝わってくる。台湾ということで、日本からも近く、移動しやすさや時差ほぼ無しという意味でもかなり魅力的だ。私は夏頃にこのコングレスの存在を知ったのだが、諸事情あって参加・見学等は叶わなかった。もし次回開催が決まれば、ぜひ詳細を注視し、できることなら見学・参加などしてみたいものだ。

2016/12/14

ウィーン交響楽団の「シティ・ノワール」抜粋

ウィーン交響楽団(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ではない)が、ジョン・アダムス「シティ・ノワール」を演奏した動画が、YouTubeに抜粋で公式アカウントよりアップされていた。サクソフォンは誰かな…と注目して観ていると、ラーシュ・ムレクシュ Lars Mlekusch氏!確かに、Facebookでラーシュ氏が同曲を吹くとか何とか、そんなポストを見た記憶がある。



この動画はわずか3分ちょっとだが、全編も観てみたいなあ。

初演のロサンゼルス交響楽団はティモシー・マカリスター氏、ロンドン交響楽団の時はサイモン・ハラーム氏、オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の時はアルノ・ボーンカンプ氏と、一線で活躍する演奏者がサクソフォンパート担当として抜擢されているようだ。

2016/12/12

モレティ氏のイベール(音だけ) on YouTube

ファブリス・モレティ Fabrice Moretti氏が独奏を務め、Jean-Louis Petit指揮Orchestre de chambre "Jean-Louis Petit"とともにジャック・イベール「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」を演奏している録音がYouTubeにアップロードされていた。録音データ等が全く書かれておらず、いつの時代の演奏か、セッション録音なのかライヴ録音なのか、わからない。



緩徐部分などなかなか良い演奏だと思うのだが、軽快なテンポの部分では少々微温的というか、若干オーケストラに足を引っ張られているというか、やはりイベールはある程度スピーディかつ軽やかな演奏が良いなあと思うのであった。とはいえ、貴重な録音である。

モレティ氏のYouTube上の演奏(音だけ)といえば、やはりこれだな。ゴトコフスキー「ブリヤンス」。
https://www.youtube.com/watch?v=zd54rB99y50
https://www.youtube.com/watch?v=ymoEETywVSI
https://www.youtube.com/watch?v=YnJjPufqZ6Q

2016/12/10

演奏者フォローイングシステム「アンテスコフォ」について

イタリア出身の作曲家、マルコ・ストロッパが作曲したサクソフォンとライヴ・エレクトロニクスのための作品「Of Silence...」は、初演の2007年当時と、再演の2012年当時では、演奏形態が異なっていた。

2012年のドゥラングル教授の演奏会プログラム冊子には、次のような一文が書かれている:「アルシア・コント率いるチームがIRCAMで2011年に開発したアンテスコフォというシステムによってコンピュータが調和的に人間の演奏家と対話することが可能となった(要約)」。アンテスコフォによって、演奏形態に何らかのブレイクスルーが起こったことがわかる。つまり、2007年当時は、人の手(演奏者もしくはオペレーター)でサクソフォンの生演奏とエレクトロニクスパートの同期を図っていたのだが、2012年の再演時は同期が自動化されていたと推測できる。

ではそのアンテスコフォ Antescofoとは何なのか。簡単に言えば、コンピュータが演奏者が奏でる音のピッチとテンポを正確に追うことができるシステムだ。これまで、エレクトロニクス作品の演奏といえば、テープやクリック音を聴きながら演奏者がそれに生演奏を合わせこんでいったり、演奏者がペダリングによりエレクトロニクスパートを進める、といったオペレーションが必須であった。この考え方を根本的に変えるシステムが、このアンテスコフォである。事前に楽譜をアンテスコフォに記憶させ、楽譜のタイミングに応じて様々なアクションや調整を登録しておけば、演奏者の状況に応じて様々なアクションを起こさせることが可能になる、ということだ。また、単音を追っていくだけではなく、ポリフォニックな楽譜も追うことができるというから驚き。

これまで、エレクトロニクス作品の演奏における主従関係は、基本的にコンピュータが主、演奏者が従、というのが常だったが、それがこのシステムによってひっくり返るということ。

プラットフォームはMaxないしPureData。楽譜の入力はMidiないしMusicXML。楽譜に応じたアクションを、AscoEditorやAscoGraphなる専用ツールで入力してく、というワークフローモデルのようだ。非常に興味深いのは、トリガだけではなく、時間経過(スコア上の経過)とともに、時間経過で連続的に変化する「グラフ」を描くことができる、ということ。スコアの時間経過とともに、変調のためのパラメータを徐々に変えていく、という芸当は、これまでは演奏者が一人では決して実現できなかったものだが、それが実現できるようになるということだ。

極端な例だが、このシステムを使えば「私ではなく、風が…」を、マイク1本、コンピュータ1台、スピーカー1台、演奏者1人で演奏することも可能なのだろう。この曲、アンプリファイとエコーの、時間経過に伴う変化が要求されており、本来は個別の機能を持つ2本のマイク間を、サクソフォン奏者が楽器の位置を能動的に変えていく必要があるのだが、一本のマイクからの入力に適用するエフェクトを、スコア上の時間変化に伴って変化させる…という、そんなシステムが実現できそうだ。

ちなみに、アンテスコフォについて調べていると、以下のような文言も見つけることができる。アルシア・コントとマルコ・ストロッパが、まさに「Of Silence...」のために開発したシステム、ということのようだ。2007年当時の演奏の一部にはすでにプロトタイピングと思われるものが利用されており、「Of Silence...」その後、様々な音楽家や技術者の手によってブラッシュアップが図られていたことがわかる。
Antescofo was born out of a collaboration a researcher¥ (Arshia Cont), a composer (Marco Stroppa), and saxophonist Claude Delangle for the world premier of ... of Silence in late 2007. Antescofo is particularly grateful to composer Marco Stroppa, the main motivation behind its existence and his continuous and generous intellectual support. Since 2007, many composers and computer musicians have joined the active camp to whom Antescofo is always grateful: Pierre Boulez, Philippe Manoury, Gilbert Nouno, Serge Lemouton, Larry Nelson, and others… .

プログラムとドキュメント一式は、Ircamのウェブサイトから無料で入手可能。興味のある方は試してみてはいかがだろうか。まさに夢のようなシステムだが、実際の追従性や、スコアの複雑度、他声部への対応度、必要スペックはどんなものなのだろう。デモの演奏をYouTubeで観ると、かなり複雑な楽譜にも対応できているように見受けられるし、実際私が観た「Of Silence...」での演奏も、追従度は見事なものだった。何年かしたら、広く皆が使うようになっているかもしれない。

2016/12/09

ジーンダイバー

「ジーンダイバー」をご存知だろうか。1994年から1995年にかけ、NHK教育(そう、EテレではなくNHK教育)の「天才てれびくん」内の枠を使って放映されていたアニメ。最近そのDVD全巻(7巻セット)を中古で購入したのだ。

現実世界のナビゲーション・センターと、コンピュータ・シミュレーションによって構築された仮想世界の間で交信を行いながら、物語が進んでいく。その設定が、子供心に向けて妙なリアル感を醸し出すのに一役買っている。内容は、その仮想世界における、生物進化の謎を解く大冒険。げっ歯類が進化した生物(プグラシュティク)と人類の優位性との進化優位性を巡る攻防が繰り広げられる前半、そして、生物の全進化に介入しようとする存在(スネーカー)とそれを阻止する存在(エウロパ人)の戦いに巻き込まれる後半。

当時の最新の生物学的考証をふんだんに散りばめ、さらに計算機科学や物理学、天文学といったエッセンスを加えた、凡そ子供向けアニメとは思えない内容。特に後半はスケールの大きさに驚かされっぱなし。私はリアルタイムで観ていたが、当時はここまで深い内容とは思わなかった。

ちなみにオープニング・テーマには、ソプラノサクソフォンが使われており、短いながらも耳に残る作品だ。その他のBGMも抑制が効きつつも素敵なもの。

キャラクターも非常に魅力的。仮想世界を旅するのは、現実世界から仮想世界へ飛び込んだ唯という女の子、そして、仮想世界を構成するコンピュータが生み出した特殊生物のパック(少しキタキツネに似ている)。途中からはプグラシュティクのティル・ニーが加わる。また、それを現実世界からナビゲートする虎哲&セラフィー(感情を持つ計算機端末)、そしてアキラ。それぞれの役回りや性格が丁寧に描き出されている。唯やティルの可愛さや、仲間を思う性格・立ち振舞いに惹かれた方も多いことだろう。最後の最後には、唯の思いやりの心が物語の鍵になってきたり…。

作画はお世辞にも良いとはいえない。あくまで天才てれびくんの中のいちコーナーということで、おそらく予算が限られていたのだろう、同じカットの繰り返しや、平行移動/パラパラ漫画風カットなど、さすがに最新のアニメーションと比べると見劣り感が否めない。また、現実世界での子役の演技もイマイチ。第一話(アキラと唯以外に3人登場)などはちょっと観るに耐えないし、初期のアキラもたどたどしい(アキラは後半に向けて良くなっていく)。

といったことを差し引いても、シナリオ、音楽、そしてキャラクターの魅力の高さには抗えない。様々な楽しさが詰まった本作品、広く知られてほしいものだ。

2016/12/07

ベルンハルト・ラング「DW24」のCD化

オーストリア生まれの作曲家、ベルンハルト・ラング Bernhard Lang氏の作品「DW24 "Loops for Al Jourgensen"」が、Lars Mlekusch氏の最新アルバムに収録された。サクソフォンと室内オーケストラとエレクトロニクスのための作品で、小さな断片を反復させ、かつそこにグルーヴを加えるという独特の手法で作曲されているが、聴いた時の印象が実にカッコ良く、24分という長さを一気に聴けてしまうような内容。広く知られると良いな、と思っていた所なのだ。

クレジットは以下の通り。

Simeon Pironkoff, conductor
Lars Mlekusch, saxophone
Duo Saxophonic, sax & electronics
PHACE

ライヴで聴いた時、バックを務めていた室内オーケストラはプロクシマ・ケンタウリだったが、このアルバムではオーストリアのPHACEが担当している(出版自体も、PHACEが運営するレーベルが担当している)。演奏内容はさすがで、曲の魅力をしっかりと伝えているものだと感じた。Amazon等で購入できる

2016/12/04

Amstel Quartetからメレマ氏が去ることに

昨月末のニュースであるが…オランダの中堅四重奏団で、これまでいくつも素晴らしいCDをリリースしていることで有名なAmstel Quartetから、バリトンのTies Mellema ティエス・メレマ氏が脱退することになったそうだ。後任はHarry Cherrin氏。

メレマ氏は、昨年中頃にがんを患い、化学療法により治療を試みて現在回復途中にある。数ヶ月前より演奏活動は再開しているようだが、諸々の事情により、脱退を決めたそうだ。そのメレマ氏コメント全文はメレマ氏のブログに記載されているが、(ざっくり言うと)これから音楽活動で重点的に取り組んでいくべきことを、Amstel Quartetではない他の場所で実現していくことにした、というのが脱退の理由なのだそうだ。

メレマ氏は、オランダの現代サクソフォン界における非常に有能な奏者の一人である。あのボーンカンプ氏が、自身のアルバムにおけるヒンデミットのデュオの相手としてメレマ氏を選んでいることからも、周囲からの期待の大きさが分かるというものだろう。2008年には料理中に右手を包丁で負傷し、しかしそれにめげず左手メインで演奏可能な作品を委嘱・収録した「On the Other Hand」をリリース、2015年のがん発症・治療のあとも演奏活動を行えるまでに回復している。様々な困難に直面しながらも、それに負けず演奏を続けている。Amstel Quartetを去るのは非常に残念だが、ぜひ今後もメレマ氏ならではの演奏を続けていただきたいところだ。

Amstel Quartetとしての活動は20年に及ぶ。ライヴで聴く機会はなかったが、「Straight Lines」を始めとする数々のアルバムは素晴らしく、何枚か所持、ブログで紹介したこともある。技術的な充実度は言わずもがな、取り組むレパートリーは古典・現代のバランスが取れており、演奏内容も充実と、良いことずくめ・隙のないアルバムばかりだった。今後もまずますカルテットとして円熟した活動を展開してくれる…と期待していただけに、今回のニュースは残念だった。しかし、新生Amstel Quartetが、これまで以上に魅力的なライヴ活動や、アルバムリリースを行ってくれることに期待したい。

最近のメレマ氏の演奏より。バッハの「ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ」と、ジョン・コルトレーンの即興演奏を組み合わせたパフォーマンス。

2016/12/03

管打楽器コンクールのサクソフォン部門歴代本選課題曲

歴代の管打楽器コンクールの本選課題曲を並べてみる。情報の出元は、日本音楽教育文化振興会のページ。

第1回(1984年):H.トマジ「協奏曲」
第4回(1987年):P.M.デュボワ「協奏曲」
第7回(1990年):A.グラズノフ「協奏曲」
第10回(1993年):J.イベール「小協奏曲」
第13回(1996年):L.E.ラーション「協奏曲」
第16回(1999年):P.クレストン「協奏曲」
第19回(2002年):F.マルタン「バラード」
第22回(2005年):L.E.ラーション「協奏曲」
第25回(2008年):H.トマジ「協奏曲」
第28回(2011年):E.グレグソン「協奏曲」
第31回(2014年):A.ウェニアン「ラプソディ」
第34回(2017年):F.マルタン「バラード」

(「ラプソディ」を「狂詩曲」と書いたり、「バラード」を「譚詩曲」と書いたりすべきなのか、少々迷いもした)

基本的にはオーケストラと演奏されることが前提とされる曲で、ピアノ・リダクションが存在しており、技術的にも音楽的にも優れ、順位を付けることができる作品、ということで、毎度選曲は大変なのだろう。

2016/12/02

Tokyo Rock'n Sax 「Permanent」

他ジャンルに対する敬意を、ここまで強く前面に押し出して制作された(クラシカル・サクソフォン奏者による)アルバムが、これまで存在しただろうか。ぱっと思いつくところでは、Henk van Twillert氏の「Tango(Movie Play Classics)」や、Julien Petit氏の「POCCHA」が挙げられると思うが、そういった一流のアルバム達と同列に位置するような、素晴らしい内容だ。

各個人の技量は言うまでもがな、ミキシングやマスタリングの優秀さなどが、完成度を一層高めている…というか、これこそが必然なのだと思えてしまう。プログレッシヴ・ロックというジャンルが、いかに上流から下流まで一気通貫で隙無く作りこむ必要があるかを、物語っていると思う。

「Permanent(metoro music METOM 005)」
出演:Tokyo Rock'n Sax(松下洋、山下友教、東秀樹、加藤里志、丸場慶人、塩塚純、川地立真、田中拓也、山本真央樹(drs))
曲目:
U.K. - In the Dead of Night
King Crimson - 21st Century Schizoid Man
Led Zeppelin - Black Dog
Yes - Roundabout
Deep Purple - Fireball
Deep Purple - Burn
Led Zeppelin - Stairway to Heaven
Genesis - Dancin' with the Moonlit Knight
Queen - Love of My Life

このブログ上でも何度かライヴのレビューを行っておりお馴染みだが、改めて簡単に素性を紹介。松下洋氏をリーダーとして、クラシカル・サクソフォン界で活躍する8人の奏者と、ギタリスト山本恭司氏のご子息としても有名な山本真央樹氏をドラムスに据えた、"ロックバンド"である。1970年代のプログレッシヴ・ロックを中心とするレパートリーに取り組み続けている。すでにライヴは(レコ発ライヴ、レコスタライヴを含めると)7回を数え、今後ますます活躍が期待される団体だ。10月のライヴでは田中氏の脱退が発表されたが、今後どのように進んでいくのかなあ。

そんな彼らのファーストアルバムは、得意のレパートリー・名曲をこれでもかと詰め込んだ意欲作。各曲の解説はCDのライナー(レコーディングとミキシングを務めた安田信二氏による)に書かれているが、いくつかピックアップしてご紹介すると…キング・クリムゾンの「21 Century Schizoid Man」は、"プログレッシヴ・ロック"というジャンルの扉を開いたとされる、歴史上重要な作品。1969年に発表され、それまで「ロックと言えばロックンロール」というような一般認識を覆した。イエス「Roundabout」は、同団体4作目のアルバム「こわれもの」の冒頭に収録された作品。クリス・スクワイアのバス・オスティナート上で繰り返されるクールなメロディが印象深い。2012年にはアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」のEDに採用され、大ブレイク。レッド・ツェッペリン「天国への階段」は、美しいバラード…と思いきや冒頭の印象を残したままハードな後半へと突入していく、美しい構成感を持った作品。否応なしに感動させられる。ジェネシス「月影の騎士」は、ブリティッシュ・シンフォニック・ロックの古典。音数は控えめながら、その構成感やテアトル的雰囲気で一気に聴かせる名曲。…等々、ちょっと書ききれないほどだ。

どの曲においても、音色のバリエーションの豊富さ(ここまでギターのディストーション風の音を作れるのか、という驚き)、ソロの完全コピー、アレンジの緻密さなど、とにかく偉大な作品群へのリスペクトを存分に感じられる。奏者の技術力・音楽性の高さによるところは大きく、さらに上にも書いたが、ポスト処理の作り込みのコダワリも半端ではない。聴いてみれば判るのだが、1曲1曲ミキシングやマスタリングを変えているようで、例えばあのグループのあのアルバム風の音、を見事に表現しているのは恐れ入る。まるでオムニバスアルバムを聴いているような気分にさせられる。

価格の何倍も価値があるアルバム。ロックに興味がない方も、これを機に耳にしてみてはいかがだろうか。

Amazonでの購入リンクは、こちら→Permanent

2016/12/01

第34回管打コンクールの課題曲

2017年の8月に開催予定の第34回日本管打楽器コンクール、オーボエ、サクソフォン、パーカッション、マリンバ各部門の課題曲が公開された。

サクソフォン部門は、一次がボザの「12 Études-Caprices」から第6曲と第1曲、二次がイベール「コンチェルティーノ」の第2楽章と選択曲(オルブライトやシュルードなど、比較的ハードな作品が含まれている)、本選がマルタンの「バラード」。どんなコンクールになるのだろう、直接関わることは無い身ながら、楽しみだ。

詳細・公式情報は以下のリンクから。
http://www.jmecps.or.jp/concours.php?time=34

2016/11/29

SWR Musicよりデファイエ氏の復刻録音

以前からFacebook等で話題になっている録音でおり、今更な感じもあるが、備忘録のためにここにも書いておく。

SWR Musicという南西ドイツ放送局が運営するレーベルより、ダニエル・デファイエ氏の1950年代~1960年代の復刻(放送用?)録音が、おそらくインターネット配信限定でリリースされている。SWR Musicは、"Classic Archive"というシリーズで、自社が保有する歴史的録音をリリースしまくっている。多くは南西ドイツ放送交響楽団の録音で、特にサクソフォン的な意味では着目していなかったのだが、突然のリリース。しかも、驚くべき内容、サクソフォン界にとって重要なものと言えるだろう。

すべてバーデンバーデンの放送局のスタジオで録音されたものであるとのこと。チェレプニン、パスカル、クレストンといった同じみのレパートリーに加え、トレビンスキー、マルテッリという珍しい作品も並ぶ。デファイエ氏が30代から40代だった頃、演奏家としてすでに評価は確立しており、ミュール氏の後継として飛ぶ鳥を落とす勢いであった、まさにその頃の録音ということになるだろうか。まず録音状態が非常に良い!そして、デファイエ氏独特の美しい節回しやヴィブラートを、どの曲においても堪能することができる…この頃にはすでに氏の演奏スタイルは完成されていたということだろう。

クレストンの録音は1980年代の日本での録音があるし、パスカルはCrestレーベルに収録されているし…と思ってはいけない。この感性というか、みずみずしさはこの録音ならではであろう。デファイエ氏のファンならずとも、必聴に値する内容だ。

20th Century Music for Saxophone and Piano(SWR Music SWR10331)

A.Tcherepnin - Sonatine sportive
C.Pascal - Sonatine
10 October 1958, Musikstudio, Baden-Baden, Germany

A.Trebinsky - Saxophone sonatine
15 September 1959, Musikstudio, Baden-Baden, Germany

H.Martelli - 3 Esquisses
20 April 1963, Studio 5, Hans-Rosbaud-Studio, Südwestfunk, Baden-Baden, Germany

P.Creston - Sonata
15 September 1959, Hans-Rosbaud-Studio, Musikstudio, Südwestfunk, Baden-Baden, Germany

ぱっと調べた限りだが、Naxos Music Library、Google Play Music、iTunesで聴くことができる。
http://ml.naxos.jp/album/SWR10331
https://play.google.com/music/m/Brmu3kvar6bivojfsp7opymmtvm?t=20th_Century_Music_for_Saxophone__Piano_-_
https://itunes.apple.com/jp/album/20th-century-music-for-saxophone/id1131279933

2016/11/28

ミュール四重奏SP復刻盤の準備

マルセル・ミュール氏がソプラノ奏者を務めた四重奏団…ギャルド・レピュブリケーヌ四重奏団、パリ四重奏団時代の、SP復刻盤の準備がようやく最終段階を迎えている。この盤は、木下直人さんが所有するSP盤を、ピエール・クレマンのターンテーブル、カートリッジを使って復刻したもの。先日独奏編がグリーンドア音楽出版より発売されたばかりだが、その四重奏編となる。

私は、解説書きと盤チェック等を担当した。諸事情により進捗がノロノロになってしまい、木下さんには迷惑をかけてしまったが、ようやく終えることができて一安心。

日曜日には、最終マスタのコピーが到着し、一通り聴くことができた。復刻の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。これまでの復刻において、ときには平面的にも聴こえていたモノラルSPが、驚くほどの立体感を持って迫ってくる。SPに真の実力を発揮させる復刻、ということだろう。発売は来年早々だと思う。乞うご期待。

2016/11/26

第8回サクソフォン交流会 in 長野 募集要項公開

2017年5月20日に、長野県長野市にて開催される「第8回サクソフォン交流会 in 長野」。アンサンブル団体の募集要項が公開された。参加条件等については、特に例年と大きな変化はない。

https://sites.google.com/site/saxkouryukai/


募集は12月11日の22:00から12月31日の22:00まで。多くの皆様の参加をお待ちしております。

2016/11/23

スマートフォンの機種変更

スマートフォンを機種変更。携帯を初めて持って以来、SANYO→SANYO→Sony Ericsson(re)→SHARP(IS05)→HTC(J One)と乗り換えてきたのだが、3年4ヶ月連れ添ったHTC製機種と別れ、Huaweiのhonor 8を購入した。

ざっくりとした仕様は、Kirin950 Octa-Core CPU、LPDDR4 4GB RAM、32GB eMMC、12MP dual cam、5.2inch 1920x1080 IPS disp、3000mAh Battery、145.5x71x7.45 Size、153g、Android 6.0といったところ。ゲームはほぼやらないので、ハイスペックは不要。Android機の中で、価格はソコソコ(30000円前後)で普段使い向けに手堅い性能を持つ機種…というところで絞り込み、決定した。国内では楽天モバイルSIMとの組み合わせ限定販売ということで、最安値のデータSIMとともに購入した。楽天モバイルSIMは解約する予定。実運用は、mineoのDプラン。

届いて手に取って驚いたのは、デザイン性の高さと作りの丁寧さ。一昔前の「中国製」という言葉が醸し出す印象を感じさせない、一流の"モノ"。そもそも、かのアップルだって、製造を請け負ってるのは鴻海の中国拠点なのだから、もはや中国だから云々というのは、品質が低い理由にはならない時代なのだなと感じた。このようなものを低コストで作られてしまうと、日本は大変だ…。

デザインも見事。同社の端末は、近年マチュー・ルアヌール氏(世界的な工業デザイナーのひとり)をチーフに迎えて以来一気に洗練されたが、特に背面の美しさは特筆すべきである。多層構造から生み出される光の綾が面白い。ブルー、ホワイト、ゴールドの3色展開からホワイトを選んだのだが、抑制の取れた美しさに、センスを感じる。

一週間ほど使ってみたが、使い心地も上々。EMUIというiOS風味ランチャーの上で、各種アプリがサクサク動く。特に、4GBというメモリの多さが効いていることだろう。Antutuベンチマークも90000点台と、非常に優秀だ。ゲーム等重いアプリの動作は…普段ゲームしないので分からないが、どうかなあ。3D性能はそれなり、というレビューは目にすることがあるのだが。

また、本機種ならではの機能として感心した事を2点ほど挙げておきたい。一つ目は指紋認証の素早さ。センサーをなぞる等の操作は要らず、指を触れた置いた瞬間に一瞬で解除される。他の端末の指紋認証センサーも使ったことがあるのだが、段違いの精度と速度だ。二つ目は、デュアルカメラの面白さ。カラーとモノクロ、2種のセンサーを積んでいるとのこと。これを使って、普段の写真ではモノクロセンサーの光量情報を上手く使って色彩感を補正した美しい写真が撮れるのだ。また、視差情報とコンピューテーショナル・イメージングを組み合わせ、撮影後に、擬似的にピント位置/写界深度調整できるというカメラ機能には、驚かされた。調整次第ではかなり自然な(大口径レンズで撮影した風の)画を得ることができる。

スピーカーに関しては、以前利用していた機種が良くできすぎていた(フロントステレオスピーカー搭載)ので、モノラルということでちょっと比べ物にならないかな。これは仕方がない。

総じて満足度の高い端末だ。Android 7.0へのアップデートも来年1月ころに予定されているとのこと。長く使っていきたい。

2016/11/06

Mirasol Quartet plays "Chaconne (伊藤康英編)"

Mirasol Quartetというアメリカのサクソフォン四重奏団が、伊藤康英先生編曲のバッハ「シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番より)」を演奏している動画を見つけた。同四重奏団は、テキサス工科大学出身のサクソフォン奏者によって結成された団体である。

日本ではこの編曲の素晴らしさが知られてきて、委嘱者である雲井雅人サックス四重奏団以外にも、少しずつプロフェッショナルの四重奏団が取り上げる機会が増えてきている。だいぶ前からこの編曲を推しまくっていた身としては、とても嬉しいことだ。しかし、アメリカでもこうやって演奏されているとは知らなかった。ずっと前に(誰だったか忘れたが)アメリカの奏者から「バロック系の良い編曲何か知っていない?」と訊かれたことがあって、そのときにこの編曲を勧めたことを思い出した。



動画の説明には編曲者についての説明がなく、今まで検索等で引っかからず気付かなかったのだが、これは間違いなく伊藤康英先生の編曲である(偶然見つけた)。とてもレベルが高い演奏。各箇所の組み立て方のみならず、全体の構成もかなりしっかりしており、聴き手を惹きつける演奏だと思う。

プロフィールムービー作り

妹の結婚式に際して、プロフィールムービー(小さい頃から今までの写真を見せていくムービー)の制作を担当した。

某J-POPのBGMを、Audacityを使ってカット、前奏部分+1番or2番など希望部分を違和感のないように接続。写真は必要分をIrfanViewで色調補正。最後、Vegas Pro 13に素材を取り込んで、テロップやエフェクト等を組み込んだ。プロフェッショナル用途で使われることもある動画編集ソフト、Vegas Pro 13は、今回のために購入(セールで4000円くらいだった)したのだが、Windows標準のムービーメーカーよりも高機能、かつ自由度が高く、非常にサクサクした使い心地も相まって、快適に制作をすすめることができた。フレーミング、エフェクトやトランジションの豊富さは、さすがハイアマチュア~プロフェッショナル向けのソフトウェア、といったところ。

できあがったものは、まあ素人仕事なので見栄えがそんなに良いわけではないのだが、気持ちがこもったものにはなったかなあ。

妹の結婚式

妻とともに金曜から長野入りし、11/5は松本市にて妹の結婚式に参列。良い天気に恵まれ、とても良い式となった。

久々に親戚一同が集う久々の機会であったが、皆元気そうで良かった。

2016/11/03

Proxima Centauri - M.B.Charrier & H.Sakaguchi マスタークラス&ミニコンサート

11/5の演奏会は別件で伺えないのだが、本日こちらの演奏会を聴くことができた。今回の来日中、聴くことは叶わないと思っていただけに嬉しく、また期待以上の内容だった!

【Proxima Centauri - Marie Bernadette Charrier & Hiromi Sakaguchi マスタークラス&ミニコンサート】
出演:マリー=ベルナデット・シャリエ(sax)、坂口裕美(pf)
日時:2016年11月5日(土)マスタークラス13:00開演 ミニコンサート15:00開演
会場:洗足学園音楽大学シルバーマウンテン1F
プログラム:
Hans-Joachim Hespos - Ikas
Philippe Hurel - Bacasax
鈴木治行 - 隔世遺伝
François Rossé - Erde-Edo
小櫻秀樹 - 私はボルドーのサックス奏者だ!
François Rossé - Fuku Yama

マスタークラスは、デニゾフ「ソナタ」と増田悦郎「PAIN II(本日のマスタークラスのために準備された新作)」。デニゾフでの受講者は荒木真寛氏(asax)と中村真幸氏(pf)、増田作品での受講者は藏戸里沙氏(sax)と森嶋奏帆氏(pf)。マスタークラスの内容は別記事に譲るが、かなり細かい部分まで突っ込んだ、充実した内容のマスタークラスだった。デニゾフは、楽譜に書いている内容を丁寧に読み解き、その各箇所に適した演奏法を、様々なバックグラウンドにもとづいて指摘・改善させるというもの。増田作品は、作曲者臨席のもと、作品の意図する内容を引き出しながら、適切な表現を行うためのテクニックや表現法を中心にアドバイスする、というものだった。

いずれの受講者もかなりしっかりと準備してあり、最初の通し演奏もかなりレベルが高かったのだが、さらに突っ込んだ指摘が飛んでいた。本日のマスタークラスを聴いて、ボルドー音楽院で学んでみたい、と思った方も多いのではないかな。それだけ、濃くて充実した内容だった。シャリエ氏が模範で吹く短いフレーズも、無限のバリエーションの表現が聴こえてきて、かつ各箇所の楽想にピタリと当てはまるものであった。

ミニコンサートも凄かった。今回は、アルト、テナー、バリトンの3種類を繰っての演奏会。テアトル的な雰囲気を持つ「Ikas」、シェルシ作品か、スペクトル楽派の作品のような雰囲気を持つ「Bacasax」、ここまで2つほど短い作品で、一気に会場の度肝を抜いた。続く鈴木氏の作品では、テナーとピアノが12音的なリフをひたすらに繰り返す(ピアノも凄く良く弾く方で、キャスリーン・グッドソン氏の快刀乱舞っぷりを思い出した)。

ピアノソロで演奏されたロセ作品「Erde-Edo」や「私はボルドーのサックス奏者だ!」は、聴き手の頭がついていかないほどの響きやシーンの変化があり、しかし演奏者は高い集中力で見事に楽曲の持つパワーを表現していた。この2人のために書かれたという「Fuku Yama」での、驚異的なアンサンブルの然り。シャリエ氏、坂口氏の底知れぬ技術力、アンサンブル能力、ソルフェージュ能力を思い知らされたのだった。

いやあ、本当に聴けてよかったなあ!

演奏会情報:シャリエ氏、来日

上田卓さんよりご案内いただいた演奏会/レクチャーをご紹介。

ボルドー音楽院教授のマリー=ベルナデット・シャリエ Marie-Bernadette Charrier氏。多種多様なフランスの現代サクソフォン界の中にあって、ロンデックス氏が開拓した現代サクソフォン分野をさらに発展させ続けている奏者・教育者。独奏分野はもちろんのこと、プロクシマ・ケンタウリ(ソントリ)での、室内楽分野での活動実績も多い。ナント音楽院、ならびにボルドー音楽院で、サクソフォン、バソン、室内楽、音楽理論、アナリーゼ、音楽史、和声、対位法を学んだ。国際的に演奏活動を展開する他、室内楽団のプロクシマ・ケンタウリでは芸術監督を務めている。

上記のように凄まじい経歴を持つのだが、平たく言えば…バリトンサクソフォンを操って現代音楽をバリバリ吹きまくる女性奏者、といったイメージ。とにかくカッコイイと思う。アラやロセやアヴェルなど、ボルドー一派の作品は、なかなかクセのあるものが多いのだが、そんな難しさなど微塵も感じさせない、求道者のような演奏が魅力的である。

実際の演奏姿は、フランスのストラスブール開かれたコングレスにて拝見した。Bernhard Lang「DW 24(独奏:Lars Mlekusch)」という独奏サクソフォン+室内楽バックという作品の室内楽パートを、プロクシマ・ケンタウリが務めていたのだが、その中でソプラノ、テナー、バリトンを繰り、独奏とほぼ同じくらいの音符をガンガン並べていたのが、まさにシャリエ氏だったのだ。鬼気迫るという感じ…うっかり独奏よりも注目してしまったほどだったのだ。

そのシャリエ氏が来日する。北京での現代音楽フェスに合わせて、今回の来日が実現したそうだ。前回来日は(おそらく)2004年。静岡芸術文化大学で開催されたNIME(音楽・芸術表現のための新インタフェースの国際会議)のために来日したのを機に、アクタスにてマスタークラスと公演を行った。若き日の小山弦太郎さん(受講曲はロバ「Jungle」「Balafon」)や、大栗司麻さんと貝沼拓実さんのデュオ(受講曲はロバ「Adria」)が、シャリエ氏にマスタークラスを受けている様子、並びに楽曲解説とコンサートについて、サクソフォニストVol.17にて報告されている。この時も、上田卓さんが通訳と司会を務められていた。

今回は、ピアニストの坂口裕美氏との共演となる。作品としても面白そうなものが多く、注目の演奏会である。

コンサート後は、場所を変え、JMLの「現代音楽アンサンブルの運営、継続の作法~Proxima Centauriの活動について~」と題されたレクチャーも開かれるそうだ@JML音楽研究所。

【プロクシマ・センタウリ来日旋風2016】
出演:マリー=ベルナデット・シャリエ(sax)、坂口裕美(pf)
日時:2016年11月5日(土)14:00開演
会場:衎芸館(荻窪駅)
プログラム:
Hans Joachim Hespos - Ikas
Francois Rosse - EDO & Erde
鈴木治行 - 隔世遺伝(初演)
Thierry Alla - Parietal
小櫻秀樹 - 私はボルドーのサックス奏者だ!(初演)
渡辺俊哉 - 色彩配合(初演)
Francois Rosse - Fuku Yama

ちなみに、11/3には洗足学園音楽大学にて、大学関係者向けのマスタークラスならびにミニコンサートも開かれるとのこと。




2016/11/01

第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般後半の部の感想

昼~夕刻の、"後半の部"の感想。

【第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般前半の部】
日時:2016/10/30(日曜) 14:00開演
会場:金沢歌劇座

・Pastorale Symphonic Band
課題曲は管楽アンサンブル的な響き。個々の奏者のハッキリした鳴りが印象深い。フルートパートがよく響いている。金管の音の処理が少し雑だったかと。自由曲は、和のテイストを感じるテクニカルな作品。フルートのトップ奏者が大活躍(演奏会だったら終わった瞬間に真っ先に立たされるだろう)。そして何より、瀬尾氏のタクトの、バンドの引っ張り上げが凄まじい。

・J.S.B.吹奏楽団
バンドの全体として響きやフレーズを捉えている印象がある。バンドとしての響きはかなり形作られているが、セクションワークやパートが時折聴こえてこず、やや焦点がぼやけるときがあった。自由曲のリスト作品のアレンジ(田村文生氏による)は初めて聴いたが、とても面白かった。やはり、全体の音作りを大切にしている、という印象を受けるサウンドだった。

・大津シンフォニックバンド
課題曲はそつなく丁寧に、という感じがした。ほとんど隙が見られない。自由曲として取り上げられていた作品、初めて聴いたがとても不思議な音世界を堪能した鉄塊?を打つ金槌、ソロ楽器が大見得を切ったり(各ソロ奏者ブラボーでした)、瞬間瞬間の面白さがありながら、演奏は全体の構成感の構築にも力を入れているように聴こえた。"計画性"という言葉が頭に思い浮かんだ。

・川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団
課題曲は、一見無意味な楽曲の各フレーズ間の連携を引き出すような演奏。全体の構成を持たせることにも成功している。自由曲では、パワーと繊細さの両面を持つバンドだ、ということが良く表現されていたと思う。指揮に対するバンドの反応の良さ、追従性が凄まじい。福本氏の指揮はこれまで様々な場面で何度も拝見しているが、やはり才気があるというか、この方は天才なのだなあと思う。

・鏡野吹奏楽団
私用により席を外していたため聴けず。

・横浜ブラスオルケスター
課題曲のテンポが速い。どうしたんだろう?後半部分との対比はそれなりに付いていたが、原曲の雰囲気を損ないかねないほどのスピードだった。自由曲は凄まじかった。指揮の近藤久敦氏自身の編曲によるマーラー。2台ティンパニ、ハープ、ハンマー、チェレスタ…等のフル装備。ダイナミクスとパワー、場面転換の鮮烈さで一気に聴かせてしまった。とにかく気合いの凝縮っぷりが恐ろしいくらい。

・百萬石ウィンドオーケストラ
課題曲は、きちんと全員で音を重ねているのが良いですね(笑)。少し粗さはあったが、素朴で良い演奏だった。自由曲のグランサムの作品は、吹奏楽のための音のショウピースみたいな感じ。コントラバスはピアノトリオのごとく中央でドラムス?と一緒に弾いているし、ビートが目まぐるしく変化しすぎてついていけないし、音列主体のおどろおどろしい感じで進むと思いきや突然フルートが甘いメロディを奏で始めるし、突然チューバが舞台前方でスタンドプレイしたと思いきや、ユーフォが加わり、さらにバリトンサクソフォンがという、人を喰ったようなソリ部分もあるし…etc。最後のコンバスくるくるはびっくりした。2回転くらいしたかなあ。

・ウィンドアンサンブル ドゥ・ノール
課題曲冒頭から、大きめのサウンドで推移。オブリガートもしっかり鳴らされているが、これを、立体感があると捉えるか、バランスをやや損なっていると捉えるか…。自由曲では、課題曲とはまるで別のバンドのような音が聴こえてきた。この位の人数のバンドのどこから、こんなパワフルな音が出て来るのか、という驚きがあった。

・大曲吹奏楽団
課題曲は、指揮者のアクションがずいぶんパリッとしているが、出て来る音はとても繊細。旋律・対旋律・他のバランス感覚が見事だった。自由曲は、バッハの「シャコンヌ」だったが、個人的に思い入れが強い曲だけに編曲が気になって仕方がなかった、というのが正直なところ(編曲が特段悪いといっているわけではない)。名曲ではあるが、やはりこういった場でのアピール度は少々厳しいのかも。

・NTT西日本中国吹奏楽クラブ
課題曲はIII、メンバーの皆さんきっと好きなんだろうなあ(私もけっこう好きです笑)。自由曲はほっとする演奏だった。おそらく「ガイーヌ」はバンドの能力からすれば、持て余し感があったのかもしれないが、名曲を丁寧に作り込んで、肩の力を抜いて、ストレスフリーな音色や音楽を心がけているような印象を受けた。だから、聴いていてとても心地よい。「剣の舞」等がない意表をついた選曲もなかなか。

・ヤマハ吹奏楽団浜松
須川展也氏の指揮を久々に見た。交代直後の指揮を見たことがあるが、差は歴然というか、とても板についてきたなあというか。サクソフォンの演奏もそうだが、とにかく凄い努力をされて、今の指揮があるのだろう。自由曲は、ダイナミクス重視、パワーで押す系ではあるが、奏者一人ひとりがしっかりしているので、とにかく隙(うっかり割れるとか、音程がぶれるとか、ずれるとか)が全く見当たらない。大編成の楽団が、ここまでピタリと合うのは、聴いていて爽快だ。

・宝塚市吹奏楽団
課題曲から、良く子音が立つサウンド。実際鳴っている音量よりも、大きく聴こえる。後半にかけてもその傾向は続き、聴こえが衰えない。自由曲も同様。大変な作品だが、最終部の大ファンファーレもなんのその、疲れ知らずに聴こえた。奏者一人ひとりの地音が、全体の響きに埋もれず存在感を保っている、というのも特徴的。

・デアクライス・ブラスオルケスター
ちょっと冷静に聴くことができなかったのだが、それを差し引いても素晴らしい演奏だったと思う。特に自由曲への、演奏者の思い入れは強かったのではないだろうか。それを引き出す佐川氏の指揮。第一のクライマックスを迎えたのち、テンポがいったん落ち着いた再現部で、佐川氏によってあそこまでフレーズの持続(聴いているこちらの息ができなくなるほど)を強いられて、それについていくバンドが凄いなと思いながら聴いていた。

第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般前半の部の感想

午前~昼の、"前半の部"の感想を。

【第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般前半の部】
日時:2016/10/30(日曜) 9:30開演
会場:金沢歌劇座

・ソノーレ・ウィンドアンサンブル
課題曲では、木管の自由闊達な歌い方(歌わせ方)が印象的。朝イチを感じさせない爽やかなサウンドで、これが全国クラスの演奏かと感じ入る。金管は大人しめに進行すると思いきや、自由曲では一転、パリッとしたサウンド。細かい音符が連続し、さらに奏者単独の技巧(フルート、クラリネット等)を魅せる箇所もあった。高い緊張感を持ったまま、見事に演奏を終えた。

・光ウィンドオーケストラ
課題曲Vを聴くのは初めて。技術的に作り込んだとしても、聞かせどころを作るのがとても難しい印象を受けた。自由曲では、鍵盤系が大活躍し、魅了された。また、数名によるアンサンブル箇所がとても安定している。ホルンを始めとする金管系の仕事がとても丁寧に聴こえた。トランペットのアタックが美しい。

・名取交響吹奏楽団
クラリネットの人数が少ないように思えたが、課題曲では少ないなりに全体の構成でカバーする、という戦略が効いているように思えた。指揮者の作戦勝ちだろう。自由曲は、とにかく作品が面白い。ジョン・コリリアーノのクラリネット協奏曲か、ジョン・マッキーのサクソフォン協奏曲か、てなもんで、ハイハット、シェイカー、ウッドベースにサクソフォンとクラが絡む前半部、おどろおどろしく、濁ったサウンドもフル活用の中間部(コントラファゴットやコントラバスクラが超低音を奏でる)、スピード感のあるシンコペーション風コラールに走句が絡み、最後は大絶叫の最終部(後から調べてみたのだが、どうやら30分近くある作品の一部を取り上げていたようだ)という具合、技術的にも高難易度だが、見事に曲のグルーヴまでも表現しており、演奏が終わった瞬間に大盛り上がりとなった。

・倉敷市民吹奏楽団グリーンハーモニー
打楽器のみひな壇、あとの奏者はステージに平置きという珍しい配置。フレーズそれぞれの内部でそこまで統制を取っている感じを受けない(若干の凹凸が見られる)が、とてもリラックスした響きと雰囲気。なんだか緊張感のある演奏が続いていたせいか、優しい演奏に涙ぐんでしまった。自由曲は、柔らかいサウンドを前面に押し出している感じがする。オーボエはとにかく大変だったと思う。

・浜松交響吹奏楽団
課題曲で、"パートの上手さ"が聴こえる。個々の技量がそこまでクローズアップされるわけではないが、どのパート、どのセクションを取り出しても、納得の上手さ。ホルンとユーフォニアムがひな壇最上段という珍しい配置だったが、おそらく自由曲対策だろう(大活躍だった)。自由曲でも、パートごと、セクションごと、そして全体、という、3階層の美しさやダイナミックレンジを突き詰めているような印象を受ける。主題がとても難しく、若干処理に差があったかな。

・春日市民吹奏楽団
課題曲では、クラリネットを中心に、弱音~中音系の美しさが聴こえてきた。ときに「こんなに伸ばすのか」というほどの、長めのフレーズも特徴的。自由曲でも、クラリネットの美しさがバンド全体のサウンドの豊潤さを牽引しているように思えた。時折、バンド全体の中で、少しタイムラグがあるように思えたのだが、このくらいの大人数だとやむを得ないのかなあ。

・秋田吹奏楽団
課題曲は、少し遅めの設定で、じっくりと聴かせるような演奏だった。自由曲はネリベル!やはり良い作品だ。人数は全体的に若干少なめだが、縦のアンサンブルや、和音の精度でパワーを補っている。ネリベル独特の和声を、これでもかと美しく見せ付けていた。アルトサクソフォンとテナーサクソフォンは、ダイナミクスの処理が難しいフレーズを、よくまとめていたと思う。

・創価学会関西吹奏楽団
課題曲、冒頭のフルート、ピッコロのデュエットから見事な空気感。全体を通して、一見意味のないフレーズ間に、有機的なつながりを見出し、意味を与えていくような演奏だった。とてつもない大編成だが、アンサンブルのようにフレーズ内での統制は完璧。自由曲では、冒頭のファンファーレはこの日一番の貫禄と安定性だった。まるでスペクタクル映画の冒頭のファンファーレのよう。曲全体を通し、規範的そのもの。全体の構成方法、旋律のみならず、後ろで鳴っている和声にも隙がない。

・ブリヂストン吹奏楽団久留米
人気なんですね。演奏開始前、会場から期待の大きな拍手が印象的。課題曲IVはなかなかチグハグな作品だが、まったくそう聞こえない。団体が自らの強みを"わかっている"感がすごかった。中程度の人数ながら、鳴りは一級品。精度ももちろん高い。自由曲はおなじみの「ローマの祭」のスタンダード・カット(チルチェンセス途中までやって、主顕祭)だが、こうして聴くといかにトランペットが大変か、というのがよく分かる。トランペットは皆エース級で、バンダも全員鳴る、トップも相当鳴る。トロンボーンのソロは、今まで聞いた中でもっとも酔っぱらいを的確に表現しているソロ内容だったと思う。きっとあのトロンボーン奏者は酒呑みに違いない(笑)。

・上磯吹奏楽団
特別力を入れて吹いているわけではないのに、とても良く音が飛んでくる。大きい会場で鳴らすセオリーが、自然と身についているのかな(例えば練習会場が広いとか?)。美しく、良く鳴るバンドだった。個々の響きよりも、全体としての一体感や響きに重点を置き、音楽づくりをしているような印象。バンドのカラーがあるなあ。

・藤原大征とゆかいな音楽仲間たち
大人数だが、とてもスッキリした響き。見た目よりも落ち着いた音量。奏者は若い方が中心だが、指揮者の音楽作りだろうか。自由曲も同様に、とてもスッキリまとめてある。指揮者の意向が隅々まで行き渡っているような印象を受けた。

・東京隆生吹奏楽団
課題曲では、人数の多さに比して少し線は細いが、アインザッツの精度などでパワーを上手に補っている。自由曲では、瞬間瞬間の緊張と弛緩の切り替えが実に見事だ。特に、中間部から最終部にかけての、聴衆を座席に縛り付けるかのように緊張を強いる、音楽作り、オーラは見事だった。

・伊奈学園OB吹奏楽団
とにかく明るいサウンド。課題曲の再現部での明るい音は、本日前半の部の中でもピカイチ。最終部のトランペット・ソロがとても安定していて驚いた。自由曲も、やはり明るい音が印象的。瞬間瞬間の作り込みは相当なものだった。

2016/10/30

第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般前半の部/後半の部

【第64回全日本吹奏楽コンクール 職場・一般前半の部/後半の部】
日時:2016/10/30(日曜) 9:30開演
会場:金沢歌劇座

朝イチから会場入りして、1団体を除き全て聴いてきた。こんな機会(家族が乗る)でもないと、わざわざ赴いてまで聴くことはないだろう。貴重な時間だった。

吹奏楽コンクールの全国大会を聴くのは初めて。熱演の数々…という事前のは伊達ではない。半年~一年に渡って、数十人の大人がたった12分のためにひたすら準備を行うのだ。全国だからといって、手抜きは一切なし。鮮烈な大音量サウンドと、それのみならず指揮者・奏者がこのハレの場にかける気迫を、丸一日にわたって浴び続けた。こちらも負けじと集中して聴き、そしてその思いを受け止めるのだから、クタクタである(笑)。

演奏者の表情は三者三様である。とにかく楽しそうな団体、気合いの入れようが凄い団体、場に飲まれているかのような団体、王者の風格を持つ団体…等、それぞれがそれぞれの思いを胸に抱いて臨んでいるのだなと、部外者ながら感じ入ったのだった。

昔から吹奏楽コンクールについていろいろと思うところはあり、言い出したキリがないのだが、コンクールという場にしか無いもの、この場を目指すからこそ手に入れられるものは、確かにあるのだなと思ったのだった。

結果は以下の通り。各団体ごとの感想をプログラム冊子に少しメモったので、後日まとめようかなと思っている。妻が参加していたデアクライス・ブラスオルケスターは、銀賞。お世話になった関係者の皆様、応援してくださった皆様、ありがとうございました。

前半:
ソノーレ 銀
光ウィンド 銀
名取交響 金
倉敷市吹 銅
浜松交響 金
春日市吹 銀
秋田吹 銅
創価学会関西 金
ブリヂストン久留米 金
上磯吹 銅
藤原大征 銅
東京隆生 銀
伊奈学園OB 金

後半:
Pastorale 銀
J.S.B.吹 銅
大津 金
リベルテ 金
鏡野吹 銅
横浜ブラス 銀
百萬石 銅
ドゥ・ノール
大曲吹 銀
NTT西日本 銀
ヤマハ 金
宝塚市吹 銀
デアクライス 銀

2016/10/29

第8回サクソフォン交流会 in 長野についてご案内

ちょっと気が早いのだが、来年の「第8回サクソフォン交流会 in 長野」についてご紹介。なんだか、交流会という行事が少しずつ定着してきている実感があり、嬉しい限り。

【第8回サクソフォン交流会 in 長野】
日時:2017年5月20日(土)
会場:長野市芸術館・リサイタルホール(→長野市芸術館サイト 長野県長野市長野駅付近)
アドバイザー・指揮:原博巳

第3回以降、関東圏、関東圏以外で交互に開催しているのだが、次回は長野での開催となる。現地協力団体として、長野で活動されているMiST saxophone ensembleさんにご協力いただき、すでに事務作業が進行中。私は、今回も事務局の一員として活動していく(アンサンブル団体としても出演予定)。アンサンブル団体の募集開始は、2016/12/11(日曜)22:00。みなさま、ぜひご参加下さい。

金沢へ

この週末は金沢へ。

明日、金沢歌劇座で開かれる、全日本吹奏楽コンクール一般・職場の部を観に行く。妻がデアクライス・ブラスオルケスターのメンバーとして参加している。

2016/10/23

アレクサンドル・スーヤ&安井寛絵コンサート

フランスでご活躍の、アレクサンドル(アレックス)・スーヤ氏、そして安井・スーヤ・寛絵さんによる演奏会。前半がアレックス氏によるソロ、後半がアレックス氏と寛絵さんの二重奏、という仕立ての演奏会だった。

【アレクサンドル・スーヤ&安井寛絵コンサート】
出演:アレクサンドル・スーヤ、安井寛絵(以上sax)、渡辺麻里(pf)
日時:2016年10月23日(日曜)15:00開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
プログラム:
B.バルトーク - ルーマニア民俗舞曲
G.エネスコ - カンタービレとプレスト
E.シュルホフ - ホット・ソナタ
P.モーリス - プロヴァンスの風景
J.B.サンジュレ - 協奏的二重奏曲
N.ロータ - 三重奏曲~フルート、ヴァイオリン、ピアノのための~
G.コヌッソン - テクノ・パラード(アンコール)
武満徹 - 小さな空(アンコール)

いつだったかブログにも書いたが、安井寛絵さんは、だいぶ昔(留学開始直後くらい)から注目していた奏者である。…といっても、演奏を聴いたとかではなく、当時ブログを頻繁に更新されていた、ということと、長野出身である、ということが、その理由。気がつけば、様々な経験を積み、コンクールで入賞を重ね、クラシックも現代作品もなんでもござれの、超強力な演奏家となってしまった。アレックス氏と結婚されて、すでにお子さんもおられる忙しい中、変わらず様々な方面で活躍されていることは驚嘆させられる。

アレックス氏も、実に素晴らしい経歴を持つ奏者だが、そういえばしっかりと演奏を聴くのは初めてかも。チャンスはあったはずだが…。CDやYouTubeなどで聴く限り、演奏技術や音楽性にとどまらない部分(プログラミングとか、コンセプトとか)についても相当なこだわりを持っていることが窺え、本日聴くのを楽しみにしていた。

スーヤ氏の独奏ステージは、比較的耳に馴染みやすい作品を取り上げていた。しかし、どの作品の演奏でも、作品のコンセプトを色濃く表現していたのが面白い。例えばバルトークでは曲ごとの極端な音色変化を、シュルホフではポルタメント的な表現を前面に押し出し、モーリスでは民謡的なエッセンスを強調し…といった具合。こうやって文章にしてしまうと何気ないのだが…実際演奏を聴いてみると、クラシック・サクソフォンの表現域を拡大しようと試みるような、そんな心意気を感じたのだった。シュルホフは耳を洗い直されたなあ…すごかった。エネスコは、フラジオ音域を見事にコントロールしながらの演奏、原曲(フルート)の軽やかさ、機動性を失わないどころか、ダイナミックレンジなどにも色を添えた、鮮烈な演奏だった。

後半は、サンジュレから。デュオのレパートリーとしては、演奏されすぎているほど演奏されており、食傷気味ではあるのだが、今日の演奏は凄かった!このような演奏が聴けるのであればもっと聴きたいなと思わせるような…ご夫婦だから息がピッタリ、というそんな次元を超えた、音と音の超高速の会話。丁々発止、という表現がピッタリで、フランス人同士の早口の会話を見ているかのようだった。いやはや、すごかった。ニーノ・ロータの三重奏曲は、Trio Saxianaがたまに取り上げているクラリネット、チェロ、ピアノ…ではなく、フルート、ヴァイオリン、ピアノのための作品(初めて聴いた)。かなり緊張感を要する作品で、ソプラノ2本のハモリによる倍音が凄く、響きが会場に収まりきらないほど。大喝采。

アンコールはコヌッソンの「テクノ・パラード」と、武満徹の「小さな空」。武満徹のほうは、寛絵さんからあるお二方に捧げられた演奏だった。ちょっと言葉にできないような、心へと深い響きが浸透していくような、そんな演奏だった。

打ち上げ等も出たかったのだが、別件もあったため早々に退散。

2016/10/19

ロシア最新のサクソフォン事情はこちらから

ここ10年ほど、世界のクラシカル・サクソフォン界を騒がせているロシアのサクソフォン界。ニキータ・ジミン Nikita Zimin氏やセルゲイ・コレゾフ Sergey Kolesov氏など、優秀な奏者が多いのだが、数年前まで最新のロシアのサクソフォン事情を知ることが難しく、やきもきすることが多かった。

そんなロシアのサクソフォン事情を、ひとまとめに知ることのできる場所があるのでご紹介。ロシアでFacebookよりも人気を得ているVK(ヴェーカー)というSNSがあるのだが、そのSNSの中、"САКС-АКАДЕМИЯ"というグループページがそれ。英語で書くと、Sax-Academy、という感じだろう。グループページの主宰は、ロシア・サクソフォン界の発展を支えるグネーシン音楽アカデミーの教授、マルガリータ・シャポシュニコワ Margarita Shaposhnikova氏(というか、このページの存在自体、シャポシュニコワ氏に教えてもらったのだ)。VKへの登録が必要、クローズド・グループであるため承認されないと情報にアクセスできない、など、いくつか障壁はあるのだが、掲示板や音楽のメニューが充実しており、様々な情報を得ることができる。

https://vk.com/saxacademy

掲示板にはロシア国内のイベント情報やサクソフォン動画がアップされ、音楽ページにはロシア奏者の演奏が多数(特に、シャポシュニコワ氏自身の録音が面白い…クレストンの「ソナタ」とか、デニゾフの「ソナタ」とか、湯山昭の「ディヴェルティメント」とか…)。ロシアの最新のサクソフォン事情を得るにはもってこいの場所なのだ。

2016/10/18

Tokyo Rock'n Sax 5th Live ~Boys, Be Alive~

【Tokyo Rock'n Sax 5th Live ~Boys, Be Alive~】
出演:松下洋(satc)、山下友教(sa)、東秀樹(at)、加藤里志(t)、丸場慶人(t)、塩塚純(b)、川地立真(b)、田中拓也(bs)、山本真央樹(drs)
日時:2016年10月17日(月曜)20:00開演
会場:カラオケラウンジKahoo
プログラム:
King Crimson - Red
Deep Purple - Fireball
Led Zeppelin - Black Dog
Led Zeppelin - Heartbreaker
Yardbirds - Stroll On
Rush - YYZ
Queen - Bohemian Rhapsody
Yes - Roundabout
Led Zeppelin - Stairway to Heaven
Deep Purple - Burn
King Crimson - 21 Century Schizoid Man (Encore)

(山Pさん、セットリストありがとうございます!)

毎度楽しみに伺っているTokyo Rock'n Saxライヴ。前回の公式ライヴ(レコ発記念ライヴ)より暗譜となり、ステージングが派手になり、立体感が出て、それに伴ってサウンドが一気に充実してきた。3回目、4回目のライヴでは、予定調和な部分に納まりかける危うさを一瞬感じたこともあったのだが、レコ発ライヴで完全に殻を突き破った。今回のライヴは、その方向性をより極端にした、レコ発ライヴの延長に位置するライヴだったと思う。

各個人が持つ技術的なレベルには相変わらず圧倒される。特にサクソフォン奏者は全員クラシック畑の出身であるから当たり前なのだが、表面に浮き上がってくるサウンドだけではなく、中間層を支える複雑なオブリガードや、低音が担う絶妙なグルーヴ感など、常人が真似出来ない演奏を次々と繰り出していく。輪をかけて強烈なのがドラムス山本氏。技術が高い云々で片付けられない、本場仕込み(保育園の頃からキング・クリムゾンを聴いているというから驚きだ)の見事なプレイで、変人(褒め言葉です)揃いのサクソフォンパートをリードしていく。

また、今日は会場の雰囲気もとても良かった。奏者が楽しい、聴き手も楽しい、奏者が盛り上がって、聴き手も盛り上がって、という、良い循環があったなあ。

ところで…驚いたことに、バスサクソフォンの田中氏が、今回限りでTokyo Rock'n Saxを引退してしまうとのこと。ここ数回のライヴを観ていて、メンバー交代など有り得ない、と感じていただけに、個人的にも残念極まりないと感じた。今後、バスサクソフォンのポジションはどうするのだろう。そんな発表があった後に続けて演奏されたレッド・ツェッペリン「天国への階段」は、特別な感情を持って迫ってきた。ラッシュ「YYZ」の演奏(突然ソプラノでソロを取る田中氏)とともに印象深く、何だか涙ぐんでしまったのだった。

2016/10/15

四賀公民館文化祭での演奏

毎年、この時期恒例となっている、長野県諏訪市の四賀公民館文化祭演奏。いつも暖かく迎えてくださって、本当に有り難いことだ。

【四賀公民館文化祭サクソフォンアンサンブルコンサート】
日時:2016年10月15日(土)13:00開演
会場:四賀公民館
プログラム:
ロバート・シャーマン - スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
オムニバス - グレン・ミラー・メドレー
久石譲 - ジブリ・メドレー
織田英子 - 東回りの風
葉加瀬太郎 - 情熱大陸
菅野よう子 - 花は咲く(アンコール)
岡野貞一 - ふるさと(アンコール)

今年も気がつけばなんだかんだ重めのプログラム、練習期間も限られているのだが、練習・本番とも集中型でなんとか乗り切った。直前で少々ドタバタしたのだが、2週間前のゼルビア演奏とプログラムがいくつか重複していたところに助けられた。「東回りの風」は、久々にライブラリから引っ張り出してきたのだが、クラシックという観点からも実に良い作品だ。もっと皆演奏すれば良いのになあ(浜離宮朝日ホールでの雲井雅人サックス四重奏団の演奏が、未だに印象に残っている)。

爽やかな秋晴れの下、新宿駅から車で中央道を移動(車出しのSさんに感謝)。現地は予想に反して暖かく、長大な曲を演奏していると汗をかくほど。お客様にも恵まれ、和やかな雰囲気の中、楽器紹介も含めておよそ50分間の演奏を楽しんだ。演奏後は、茅野の駅前の蕎麦屋さんで打ち上げ。適当に入ったのだが、アタリの飲み屋で、ゆっくりと楽しい時間を過ごすことができたのだった。新そばの季節ということで、蕎麦の美味しかったこと!

2016/10/14

ロシアの早熟サクソフォン少女

音楽でもスポーツでも、ロシアは昔から"天才少年・少女"が多いような気がする。国民性なのか、政治方針なのか。以下の動画でサクソフォンを吹くのは、Sofya Tyurinaさん(弱冠9歳)。

モンティ「チャルダーシュ」
オケをバックに堂々たるステージング。


リムスキー=コルサコフ「熊蜂の飛行」
循環呼吸を駆使した見事な演奏。


VK(ロシアで最も広く使われているSNS)のページもあるので、気になる方は追ってみては。
https://vk.com/id288856098

2016/10/13

プミポン国王逝去

タイのプミポン国王が逝去した。サクソフォン/クラリネットの演奏家であることはよく知られているだろう。

セルマーのFacebookページに、追悼記事が上がっていた。ベニー・グッドマンとのツーショットは有名だが、Kloseの教本を使って指導するプミポン国王の写真(指導を受けているのは皇太子?)は初めて見た。なかなか凄い画だ。
https://www.facebook.com/HenriSELMERsax/posts/1371272369569378

2016/10/10

JAZZ in fuchu同時開催コンサート@府中市生涯学習センター

府中にてカルテットの演奏。30分ほどのステージだったが、濃い内容、そして楽しい本番となった。

【JAZZ in fuchu同時開催コンサート】
日時:2016年10月9日 12:30~
出演:加藤里志、並木大亮、栗林肇、佐藤美紀
会場:府中市生涯学習センター・アトリウム
プログラム:
Omnibus「Glenn Miller Medley」
Phil Woods「Three Improvisations」より第1楽章
JacobTV「Grab It!」
Richard Ingham「Walking the Cowgate(日本初演)」
Richard Ingham「Mrs Malcolm, Her Reel」
菅野よう子「花は咲く」(アンコール)

"「JAZZ in fuchu」の同時開催コンサート"、ということを聞いたときに、どういうプログラムが良いかなあと思案したのだが、結局ジャズの様々な側面をカルテットで表現する、という内容になった。最初はチック・コリアやラッセル・ピーターソンの作品も入れていたのだが、練習期間が短かったり何だったりして断念。その他もいろいろとドタバタしたが、加藤さんのご協力もあって何とか本番にこぎつけた。

ハードなプログラムの割にお客様の反応も良く、最初から最後まで楽しく演奏できた。個人的には「Walking the Cowgate」を演奏できたのが嬉しかったなあ。また、とても響く場所、ということで、「花は咲く」が素敵な演奏になったと思う。

お客様、スタッフ、共演者の皆様、ありがとうございました。

2016/10/08

演奏会ご案内:明日は府中生涯学習センターで演奏

前日のご案内となってしまったが…明日、府中生涯学習センターにて、サクソフォン四重奏で演奏を行う。同センターが企画する「JAZZ in fuchu」同時開催コンサートの、30分ほどのステージで、府中生涯学習センターのアトリウム(ロビー)にて12:30から。

「JAZZ in fuchu」に引っ掛けて、ジャズの様々な様相をサクソフォン四重奏で表現する…という内容(なんだかこう書くと大層な感じだ笑)。日本初演あり、エレクトロニクスあり、スタンダードあり。加藤里志さんにも特段のご協力をいただき、なんとか本番にこぎつけることができた。短いながらもなかなかおもしろいと思うので、ぜひお越しくださいませ。

日時:2016年10月9日 12:30~
出演:加藤里志、並木大亮、栗林肇、佐藤美紀
会場:府中市生涯学習センター・アトリウム
プログラム:
オムニバス「グレン・ミラー・メドレー」
フィル・ウッズ「3つの即興曲」より第1楽章
ヤコブTV「Grab It!」
リチャード・インガム「Walking the Cowgate(日本初演)」
リチャード・インガム「Mrs Malcolm, Her Reel」

2016/10/01

伊藤康英「舞子スプリングマーチ」の録音

大学の現役/OB、合計およそ100名がつくば市のカピオに集結し伊藤康英先生が筑波大学吹奏楽団のために1998年に書いた作品、「舞子スプリングマーチ」の録音を行った。目的についてはこの場では割愛するが、上から下まで幅広い年齢が集まり、充実した合奏のあと(指揮は22期の細越さん)、最後に行った録音テイクは素晴らしい演奏になったと思う。本当の一発録りだったことから来る緊張感・集中力がそうさせていた部分もあったことだろう。

実は録音担当だったのだが綺麗に録れていて一安心。持ち込み機材を使って4chで録音し、ミキシング/マスタリングを経て数日のうちには納品できる状態へと調整を行っていく。

2016/09/19

第4回東名高速Saxophone Quintet

毎年、聴くたびにますますパワーアップの東名高速クインテット、今回も充実すぎる演奏会だった。いつも、期待以上の新しい世界を見せてくれる団体だと思う。

【第4回東名高速Saxophone Quintet~富士盛りライヴ!天地返しの謝肉祭~】
出演:瀧彬友、川内立真、松下洋、上野耕平(以上sax)、黒岩航紀(pf)
日時:2016年9月19日(月・祝)14:30開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
プログラム:
R.ブートリー - ディヴェルティメント(松下、黒岩)
佐藤雅俊 - 影(川内、黒岩)
F.ボルヌ - カルメン幻想曲(瀧、黒岩)
坂東祐大 - エアリアル・ダンス(上野)
中村真幸 - ミッドナイト・トレイン(上野、松下、黒岩)
J.イベール - 2つの間奏曲(瀧、松下、黒岩)
C.コリア - アルマンド・ルンバ(上野、川内)
F.リスト - ハンガリー狂詩曲第6番(黒岩)
A.ピアソラ - ミケランジェロ'70(瀧、上野、松下、川内)
C.サン=サーンス/前田恵美 - 動物の謝肉祭(上野、瀧、松下、川内、黒岩)

※ネタバレを含むので、行く予定の方はここから下は見ないことをおすすめする次第。感想はずっと下のほうに書いておく。





























※以下、ネタバレ。読みたい方はもっと下…。

























第1部はとにかく個性の展覧会、という感じ。意外にスタンダードな選曲ながら、第3楽章ではぶっ飛んだブートリーを聴かせた松下氏、非常に面白い新作品ジャズの語法に乗せて、自身の内情を存分に吐露した川内氏、楷書体のような、誠実な音色と音楽性、やはりピカイチの圧倒的な説得力で魅せた瀧氏、18分に及ぶ特殊奏法満載の強靭な作品を、驚異的な集中力で聴かせた上野氏…といったところ。やはりこれほどのソリストの集まりだからこそ、演奏会が徹頭徹尾面白いのだな…と再認識した。MCのそれぞれの空気感も、また楽しい。

第2部は、デュオを中心にしたプログラム。中村氏のミッドナイト・トレインは、ポピュラー音楽のような聴きやすさから、印象に残る内容であった。イベールは、まるで原曲のような爽やかな風を感じ、不思議な事に"ホールの狭さを感じさせない響き"を体感したような気がしたのだった。チック・コリアは、元々は松下くんが旭井くんに委嘱し、名古屋では松下&瀧、神奈川では松下&塩塚、という布陣で演奏した作品だが、今回は珍しや、上野氏と川内氏、という布陣!彼らのこだわりの解釈をとても楽しく聴いたのだった。第2部最後はなんと、黒岩氏のソロ。リストの超絶技巧…全力を尽くした表現…を見事に体現する振る舞いで、とても興奮させられたのだった。

第3部、挨拶代わりのピアソラに続き、景品プレゼントじゃんけん大会。そして、「動物の謝肉祭」をり回した「どうぶつの!?謝肉祭」。これがとても面白かった!編曲者がオリジナルで加えた"動物"も登場し(まさか亀がウサギとカメになったり、さらにはゴキブリが登場するとは)、原曲が50%、残りはエンターテイメント性に溢れる素敵な編曲だった。曲が進むに合わせて、ステージ上のスケッチブックにメンバーそれぞれが書いた動物が登場、その絵心すらも楽しんでしまった。

アンコールは、何とかというジャズ・ヴァイオリニストの作品で、松下氏がベース、川内氏がカホンを奏で、瀧氏と上野氏がソプラノを吹き、黒岩氏がピアノを弾くというもの。いやー、面白かった。

終演後は、聴きに来ていた方々と飲み会。こちらもまたいろんなことに話が及び、楽しかったなあ。しかし、串八珍(アクタス後の飲み会と言えばそこだったのに…)がなくなっていたのは驚き。

2016/09/14

ミュールのSP録音復刻準備中

ここ最近、マルセル・ミュールの四重奏SP録音の復刻決定盤の準備を行っている。木下直人さんのところで、Pierre Clementのターンテーブル、アーム、カートリッジのシステムが完成し、ミュールの独奏録音の復刻決定盤を製作中、ということは書いたが、今度は四重奏録音、というわけ。私は、解説書きや盤チェックといったところを担当している。

盤チェックした限り、復刻状態は素晴らしい。そして、それ以上にミュールの四重奏をじっくりと聴いたのは久々で、その軽やかさと楽しさ(そう、楽しいのだ!)にすっかり耳を洗い直されてしまった。かつて四重奏は「仲間内の楽しみ」であったそうだが、その多くの要素をそのままSPへと吹き込んでしまった雰囲気を感じることができる。

2016/09/10

第56回東京都吹奏楽コンクールの本選を聴きに

府中の森芸術劇場で開催された第56回東京都吹奏楽コンクールを聴きに伺った。昼間の府中の森芸術劇場に行くのは初めてかも。何となく府中本町から徒歩で向かった、地図の印象よりずっと遠く、日差しが照る中を汗だくになりながら歩く羽目になったのだった。

2団体(デアクライス・ブラスオルケスターと東京隆生吹奏楽団)しか聴けなかったのだが、非常に高い技術・音楽性を持った演奏で、まさに"競り合い"という印象を受けた。地固めがしっかりできており、その上の+10%の部分に指揮者の曲作りやソロの出来栄えが乗って勝敗を決する、ということなのだろう。敢えて言葉で表すならば…「課題曲では大編成ながら端正な音楽作りを心がけ、自由曲では一転、ダイナミックな音作りと高レベルな独奏で聴衆を魅了したデアクライス」「課題曲・自由曲とも、引き締まり良く制御されたアタック/リリースを武器に、カチッとした印象を残し、自由曲では楽曲のパワー面の不利さ(デアクライスの選曲に比して)を見事に補った東京隆生」といったところだろうか。

個人的には、デアクライス≦東京隆生に聴こえたのだが、もはやここまで来れば好みの問題だ。また、会場との相性など、演奏以外の要素が及ぼす影響も(接戦の場においては)大きいことだろう。他の団体は聴けなかったのだが、どのような演奏を繰り広げたのか…うーん、最初から聴けばまた印象も違ったのかもしれないが。

終わってみれば、聴いた2団体が偶然にも職場・一般部門の金賞&代表権を同点で勝ち取り、全国大会へと進むことになった。ところで、妻がデアクライス・ブラスオルケスターに乗っており、彼女としては"初の全国大会出場"となる。ここ最近の毎週末の練習は大変そうだったが、良い結果が出て実にめでたいことだ。全国大会は10月30日、石川県金沢市。少々遠いが、せっかくの機会なので聴きに行こうかなと思っているところ。

2016/09/09

新井靖志氏の訃報

突然の新井靖志氏の訃報。最初はFacebookで情報を知ったのだが、いつの間にかコンサート・イマジンのページにニュースリリースが掲載されていた。まだ51歳、若すぎる死だ。

http://www.concert.co.jp/news/detail/820/

日本管打楽器コンクールでの入賞後、トルヴェール・クヮルテットのテナー奏者として、シエナ・ウインド・オーケストラのコンサートマスターとして活躍、また昭和音楽大学他では講師として後進を育成した。

文字にして並べることのできる功績以上に、多くのものを残したサクソフォン奏者であったと思う。黄金期を迎えたシエナにおける、要のポジションで生み出される美音、多くのカルテットのテナー吹きに何とかしてあの音を出したい/あの演奏をしたいと思わせるような、トルヴェールの中での絶妙な立ち回り、師事したサクソフォン奏者からの尊敬等々、簡単に言ってしまえば、多くのサクソフォン奏者からの"憧れ"の眼差しの先にいた奏者の一人だ。"憧れ"とは、決して手に入れることのできない何かを示す時に使われる言葉であるが、おそらく新井氏の音色/音楽/指導は、他人では知り得ない独自の才能と努力から生み出された、唯一無二のものであったと思う。

私自身も、いろいろと思い出すことは多い。初めて聞いたプロフェッショナルのカルテットは、松本ハーモニーホールで聴いたトルヴェール・クヮルテット、ボザの「アンダンテとスケルツォ(テナーの独奏から始まる)」であった。トルヴェール・クヮルテットとしての演奏は、シモクラ・ドリーム・コンサートやサクソフォーン・フェスティバルなど、いくつかライヴを聴く機会があった。ソロを聴いたこともあり、一番最初は、長野県北信地区のリーダーズバンドにゲストとして招かれた際に演奏されたビンジ「協奏曲」の演奏。"アルトを吹く新井さん"を珍しく感じた。最後にライヴで聴いたのは、リリアで「サクソフォーン発表会」に出演したときだろうか。比較的最近まで演奏活動は続けており、いつでも聴ける機会はあるなあと軽く考えていたが、まさかこんなことになるとは。

大学入学以降はカルテットでテナーを吹く機会が増え、取り組む作品によっては意識せざるを得ない存在だった。長生淳「彗星」「八重奏曲」、ピアソラ/啼鵬「ブエノスアイレスの春/夏/秋/冬」、ロジャース/真島俊夫「私のお気に入り」、吉松隆「アトム・ハーツ・クラブ・カルテット」等々、今考えれば、新井氏の演奏から、"参考演奏"以上の何かを感じ取っていた。

そして、やはり外せないのは名盤「ファンタジア(Meister Music MM-1091)」「夕べの歌(Florestan FLCP21011)」の存在であろう。特に「ファンタジア」!いかに多くのテナーサクソフォン吹きがこの演奏によって新井氏の凄さと自身の甘さを思い知らされたことか!想像を絶するほどに、軽やか。テナーサックスって鍵盤楽器だっけ?という錯覚に陥ってしまうほど。サイドキーも低いシドレミもなんのその。音の一粒一粒がはっきりと目立って、曖昧さを極限まで排した見事すぎる内容である。「テナーサクソフォンという楽器で「普遍」を呈示することに成功した(おそらく世界最初の)録音(Thunderさんのレビュー記事より)」を実現した、その技術力の高さに慄くと同時に、私自身はある種の"不器用さ"のようなものを感じ取ることもある。おそらく真面目で優しい方だったのだろう、"スター"として輝くことができる能力を持ちながら、いざそうなった場合に上手く立ち振る舞えないことを知っており…敢えて一歩引いたところで音楽家/指導者として着実に歩むことを座右の銘としているような、そのような奏者だからこそ成し得た演奏ではないかな、と思う。

稀有な存在であった。謹んでご冥福を申し上げます。

2016/09/03

演奏会情報:田中拓也×本堂誠デュオ・リサイタル

演奏会情報が続くが、それだけ注目の演奏会が多い、ということで。

注目の演奏会が多い割に、私自身が足を運べているかというとそうでもなくて、別の予定とかぶったり、やることが山積していたり…ちょっと心苦しくもあるのだが、まあ仕方ない。

----------

第25回日本管打楽器コンクール第1位の田中拓也氏と、第2回アンドラ国際サクソフォンコンクール優勝の本堂誠氏、という、豪華な取り合わせの演奏会が開かれる。本堂氏は現在パリ国立高等音楽院に留学中だが、一時帰国に併せて今回のコンサートを企画したとのこと。

それぞれの奏者の名前は既に広く知られており、もちろん実際の演奏についてももはや言うことのなしの素晴らしい奏者であるので、プログラムについて少し。パリ国立高等音楽院院長の、アレクサンドロス・マルケアスの「ジョーク」は、なんとバリトンサクソフォン2本で演奏される作品。YouTube等でも聴くことができるのだが、バリトンサクソフォンの持つ表現力の大きさ(全てのサクソフォンの中で、際立って"芸事"といった雰囲を持つ楽器だと思う)を引き出した、面白い作品だと思う。

その他、本堂さんのバリトン趣味がかなり強く表れる演奏会になるそうだ。聞いた話では、前半はバリトンサクソフォン三昧になるとのこと。ということで、バリトンサクソフォン奏者垂涎のコンサートとなりそうだ。

【田中拓也×本堂誠デュオ・リサイタル】
出演:田中拓也、本堂誠(sax)、宮野志織(pf)
日時:2016年9月6日(火) 開場18:30 開演19:00
会場:アクタス渋谷店6F アンナホール
料金:一般2,500円 学生2,000円
曲目:
A. マルケアス - ジョーク
F.プーランク - トリオ
詳細:
https://www.facebook.com/events/306929699658908/

2016/08/31

演奏会情報:愛知県長久手市の須川展也×ボーンカンプ

あのアルノ・ボーンアンプ氏が、愛知県にやってくる。

ボーンカンプ氏の来日は2013年、須川氏が東京芸術大学の特別招聘教授として招いて以来だろうか。バッハ作品を中心とした作品を演奏するコンサートを開き、好評だったと聞く(私は聴きに行けなかった)。

昔は頻繁に日本を訪れリサイタルなども開いていたが、最近あまり来日してくれないのが寂しい所…と思っていたら、なんとこのたび愛知県へとやってくるそうで。しかも、共演は20年以上の友人、須川氏!プログラムは、比較的新しめのものが多い。お互いの最近のお得意レパートリー(須川氏:組曲、ボーンカンプ氏:アルル)に、デュオのピアソラ、長生淳。きっと面白い演奏会になるはずだ。

ボーンカンプ氏、CDを何枚か出しており、最近のCDを聴くと「昔の録音に比べておとなしくなったなあ」などと要らぬ感想を持ってしまうのだが、実際の演奏に触れると、その熱さに驚く。近づいたら火傷しそうなほどの熱量で、観客を一気に巻き込むのだ。バエズの「アルルの女」は、私もボーンカンプ氏の実演に触れたことがあるのだが、理屈では説明できない何かに頭がぼうっとしたことを思い出す。つべこべ言わず、せっかくの来日の機会、ぜひ聴いてみるのが良いと思う。

個人的には、またトルヴェール×アウレリア、やってほしいなあと思っているのだが…(アウレリアはだいぶメンバーも変わってしまった)。

…と、話が逸れたが、長久手市は、他に観光場所も多い。遠くからお越しの方は、愛・地球博跡地のサツキとメイの家や、トヨタ博物館に行ってから、コンサート鑑賞というのも良いのではないかな。

…って、また話が逸れたが、期待の新星~充実の中堅を経て、今や世界を代表する大御所でもある須川氏とボーンカンプ氏、この二人のデュオを聴く機会はこれから先もそうそうないはずだ。興味がある方は、ぜひ伺ってみてはどうだろうか。

【アルノ・ボーンアンプ×須川展也 with 小柳美奈子 Saxophone Duo Recital】
出演:アルノ・ボーンアンプ(sax)、須川展也(sax)、小柳美奈子(pf)
日時:2016年9月17日(土曜)14:00開演
会場:長久手市文化の家 森のホール
料金:前売・当日/一般4000円、前売のみ/フレンズ会員3,500円、前売・当日/学生2,500円
プログラム:
J.S.バッハ - G線上のアリア(須)
F.サイ - 組曲~アルト・サクソフォンとピアノのための Op.55(須)
S.バエズ - 「アルルの女」による幻想的協奏曲(ボ)
A.ピアソラ/J.ブラガート編 - ブエノスアイレスの春・夏・秋・冬(須&ボ)
長生淳 - パガニーニ・ロスト(須&ボ)ほか
詳細:
https://www.city.nagakute.lg.jp/bunka/bunka_ie/ongaku/sugawaarno.html


2016/08/28

エネミー・ゼロとマイケル・ナイマンと

先週金曜日、体調を崩して寝込んでいたのだが、そんな中ふと思い出したことがあった。遥か子供時代に遊んだゲームのことである。

タイトルは「エネミー・ゼロ」。往年の名機セガ・サターン用に開発されたゲームで、ディスク4枚からなる超大作。時は32bitゲーム機戦争時代、ソニーのプレイステーションと、セガのセガ・サターンとが、雌雄を決する戦いを繰り広げていた最中に発売された。開発元のWARPが「Dの食卓」に続くインタラクティブ・ムービーとして送り出したのが本作である。

最終的に60万枚を売り上げるヒット作となったが、ゲーム内容については賛否両論を巻き起こした。当初プレイステーション向けに発売される予定だったものを急遽セガ・サターン向けに変更したとか、敵が"見えない"ため音を頼りに倒すしかないとか、セーブ/ロード回数に制限があって数多のユーザーが最初からやり直しを強いられたとか、シナリオが映画「エイリアン」と酷似しているとか、とにかくゲームを取り巻くエピソードや内容に関してネタが尽きなかった。総合的に言えば、注目度に比して必ずしも評価が高いとはいえないゲームだった。

しかし、音楽が妙に印象的であった。シンセサイザーを中心とした、ポピュラー・スタイル、ロック・スタイルといった音楽とは一線を画するものだったのだ。ごくごく少ない音数の主題が印象的なピアノ・ソロ、しかし場面によっては時折何とも形容しがたい厚みの音楽が流れる。実は、この「エネミー・ゼロ」の音楽を担当していたのが、なんとマイケル・ナイマンだったのだ。演奏は、マイケル・ナイマン・オーケストラ。空を切り裂くようなソプラノサクソフォンはジョン・ハール、ガリガリした刻みのバリトンサクソフォンはアンディ・フィンドン、透明かつ叙情的なソプラノはサラ・レオナルド…と、ナイマン周辺のお馴染みの音楽家達がクレジットされている。

当初、マイケル・ナイマンはこのゲームに音楽を提供することを渋ったようだ。しかし、ディレクターの飯野賢治氏の説得により、提供を決めたようだ。しかも、驚いたことに出来上がった作品の数々は過去作品の流用ではなく、完全なオリジナルであった。それどころか、後年ナイマンはDziga Vertov監督のサイレント映画「これがロシヤだ(カメラを持った男)(1929)」に音楽を付ける、というプロジェクトを手がけているが、その際「エネミー・ゼロ」の音楽を転用している。憶測にすぎないが、よほどの自信作であったと思われる。この事実からも言えるのだが、ゲームの内容としては疑問が残るが、音楽の内容はピカイチだと思っている。

私がマイケル・ナイマンの音楽を認識したのは、大学入学の直前、ジョン・ハールが演奏する「蜜蜂が踊る場所」や、アポロ・サクソフォン四重奏団が演奏する「トニーへの歌」を聴いた時だ…と、長いこと思い込んでいたのだが、そこから遡ること6年前に、マイケル・ナイマンの音楽に触れ、ジョン・ハールやアンディ・フィンドンのサクソフォンを聴いていたのだなあと、驚きと嬉しさがあったのだった。

"オブサンズ"にてしらこばと音楽団演奏

うっかり書き忘れていたのだが、先週末に参加した演奏の話。"しらこばと音楽団"のメンバーとして、軽井沢のフレンチ居酒屋"オブサンズ"で演奏してきた。終わってみれば、1泊2日、計7ステージという、ハードな内容となったが、楽しい2日間であった。参加メンバーは、わんわんさん(sa)、ニジマスさん(sat)、mckenさん(b)、kuri(t)。

南浦和駅からニジマスさんご夫妻の車で移動。渋滞もなく、天気も良く、快適なドライブ。2時間半ほどで目的地の"オブサンズ"へと到着した。普段は森下で営業しているが、夏季限定で軽井沢で営業しているお店だとのこと。1階部分がレストラン、2階部分が裏方用のフリースペースとなっている。1階の一角には、ドラムス、ベース、PAが完備されており、オーナー(バンドでサクソフォンを吹いているそうだ)の音楽好きが出ているなあと感心しきり。

夜は2階の仮設ベッドで休むことができたが、さすが軽井沢、涼しくてとても過ごしやすかった。到着後、ほぼずっと雨が降ったり止んだり、という天気で、散歩や観光には厳しい天気で、その点ちょっと残念だったかな。

8/19の夜に3ステージ、8/20の昼に2ステージ、8/20の夜に2ステージ。1ステージあたり5~10曲程度。以下の20曲程を使いまわしながら、全部で40曲分くらい吹いただろうか。リハーサルは基本行わずにその場の一発勝負なので、頭フル回転、私も昔はもう少し初見能力もあったんだが、やっぱり錆びついてるなあ(汗)などと思いつつ、なんとか(皆様に助けられつつ)こなすことができた。

September
L-O-V-E
Someone to Watch Over Me
Close to You
Someday My Prince Will Come
バードランドの子守唄
トトロメドレー
勇気100%
海の見える街
やさしさに包まれたなら
銀河鉄道999
君の瞳に恋してる
Pink Panther
はじめてのチュウ
サウンド・オブ・ミュージック・メドレー
津軽海峡冬景色
長崎は今日も雨だった
酒と泪と男と女
さそり座の女
時の流れに身をまかせ
赤いスイートピー

共演者の皆様、ありがとうございました!

2016/08/20

演奏会情報:大阪市でのミーハ・ロギーナ&李早恵コンサート

大阪市で開催される、ミーハ・ロギーナ氏と李早恵氏のデュオ、"Duo Kalypso"の演奏会をご案内。

2007年のサクソフォーン・フェスティバルへの出演以来、日本でもおなじみのデュオだ。華々しいコンクール入賞歴は、聴けば納得という感じ。高い技術力、見事な音楽性など、万人を納得させる演奏を聴かせてくれる。今年の4月にも関東で私自身聴くことができたが、やはり素晴らしく、しかも聴くたびにさらに進化していることに驚いたものだ。

珍しい関西方面での演奏会、今までこのデュオの演奏会を聴いたことが無い方はぜひ聴くべきだし、また、これを聴き逃すと次の開催がいつになるか分からない(今回は個人の企画)。また、デニゾフ、シュルホフ、吉松、フランク等、スタンダードの極み、というプログラムを徹頭徹尾取り上げるという点でも興味深く、そういった意味でも注目のコンサートである。

私も、時間さえあれば聴きに行ってしまいたいくらいなのだが…(笑)。

【Duo Kalypsoコンサート】
出演:ミーハ・ロギーナ(sax)、李早恵(pf)
日時:2016年8月26日(金) 18:30開場 19:00開演
場所:大阪市阿倍野区民センター小ホール(JR天王寺・地下鉄御堂筋線天王寺・近鉄阿倍野橋から徒歩10分、地下鉄谷町線阿倍野・阪堺上町線阿倍野から徒歩3分)
料金::2500円(当日500円増)全席自由
曲目:
E.デニゾフ - ソナタ
E.シュルホフ - ホット・ソナタ
吉松隆 - ファジイバード・ソナタ
C.フランク - ソナタ
チケット申込:
http://sskproject.net/index.php/contact
から各項目を入力していただくか、
ticket@sskproject.net
に名前、メールアドレス、必要枚数をご連絡ください。

(クリックで拡大)

2016/08/16

第43回プリンセスペペ コンサート(松下洋、細川慎二、小倉大志、塩塚純)

松下洋君は、これまで5回ほどこの会場でのコンサートを行っており、会場の名前は知っていたのだが、伺うのは初めてだった。今回は、小倉くんのライヴ・ツアーの宣伝の意味合いが強い催し。

20席弱の小さなスペース。さすがに4人のパワーに対して会場の大きさとしての物足りなさはあったが、間近で音を浴びるのもたまには良いものだ。

【第43回プリンセスペペ コンサート】
出演:松下洋、細川慎二、小倉大志、塩塚純
日時:2016年8月13日(土)16:00開演
会場:プリンセスペペ(西横浜)
プログラム:
R.インガム - マルコム夫人のリール
M.ルグラン - キャラバンの到着
L.シフリン - 「燃えよドラゴン」のテーマ
久石譲 - 久石譲メドレー
B.ウィラン - トリップ・トゥ・スカイ
D.エリントン - A列車で行こう
G.ガーシュウィン - バット・ノット・フォー・ミー
伊藤康英 - 琉球幻想曲
オムニバス - ユーミン・メドレー
オムニバス - ラテン・メドレー
R.ピーターソン - ゴスペル・フィーバー(アンコール)

雑多に様々な曲が並んだが、クラシカルであろうとジャズであろうと、強いパワーとともにビシっと決めてくるあたり、やはりこの4人(全員様々な場所で活躍されている)の地力の高さとセンスの高さを感じる。私のようなアマチュアの奏者が、縦と音程を必死に合わせた所で、決して超えられず表現できないようなグルーヴを、様々な場面で感じた。どういった過程を経て、そのようなものを身に着けていくのか、そんなことにも考えが及んでしまう…のだが、まあそもそも練習量や触れる音楽の多さは圧倒的に違うわけで、そんな考えを及ばせることも無意味かもしれない。

なんだか、知っている曲が多いとそんなことまで考え始めてしまってダメだなあ(笑)もっと単純に愉しめば良いのだが、、、(いや、もちろん楽しかったのだけど)。

特に、アドリブ(と思われる箇所)も交えた、最終プログラム「ラテン・メドレー」やアンコールの「ゴスペル・フィーバー」は圧巻。音楽は屋外へも漏れ出して、道行く人が足を止めるほどだった。

演奏会情報:小倉大志氏のライヴ・ツアー

フランスのブーローニュ音楽院で学ぶサクソフォン奏者、小倉大志くんのライヴ・ツアーをご紹介。

かつてだいぶ長いこと一緒に演奏していたが、数年前からフランスに留学、ブーローニュ音楽院ジャズ科のVincent Le Quang氏に師事し、その後、クラシック科のJean Michel Goury氏に師事している。現在、クラシック科の一年目を終えて、シーズン終わりのヴァカンス中のため、一時帰国中。それに合わせて全国ツアーを組んだとのこと。

先日、小倉くんが参加したプリンセスぺぺのライヴ(まだ感想を書いていないが…)も楽しかった。本ライヴにも期待大、といったところ。これまで取り上げたことのある自作のほか、旭井翔一氏に委嘱した新作も演奏されるそうだ。さわりの参考演奏を聴かせてもらったところ、とてもカッコ良く、フルバージョンの仕上がりが楽しみな内容だった。

残念ながら私は自分の予定と重なってしまい、公演を聴きに行くことができないのだが、お時間ある方はいかがだろうか。

【Ogura Taishi Project: My Space Improvisation】
出演:小倉大志、松下洋、塩塚純、細川慎二、崔勝貴(以上sax)、田代あかり(pf)、秋元修(dr)、長谷川慧人(bs)
日時・会場:
2016年8月20日(土曜)19:00開演@和光大学ポプリホール(東京公演)
2016年8月26日(金曜)19:30開演@名古屋栄Live DOXY(名古屋公演)
2016年8月28日(日曜)18:30開演@南港サンセットホール(大阪公演)
2016年8月31日(水曜)20:00開演@New COMBO(福岡公演)
料金:一般3000円、学生2000円(当日各500円増)
問い合わせ:
concert.live.info@gmail.com

詳細は以下のチラシからどうぞ(クリックして拡大)


2016/08/15

帰省

昨日8/14から長野の実家に帰省。

着いた瞬間は「長野もずいぶん暑いなあ」という感じだったが、夕刻になると涼しい風が吹いてきて、一晩空ければ寒いほど。過ごしやすくて嬉しい。たぶん雨が降ったのもあるだろう。雨が降ると一気に気温が下がるのもこちらならでは。

帰省のために乗った飯田線という地元のローカル線で、バカンス期間を使ってオランダから来日中だというギターを携えたBart Corverという若者(アムステルダム音楽院在籍中だそうだ)に話しかけられた。なんでも、関西の音楽祭に参加した後、飯田線沿線に住むインド出身のチベット音楽演奏家のところへ遊びに行くのだとか。武満徹やらJacobTVやらの話でひとしきり盛り上がった。まさか見ず知らずの外国の方と飯田線の中でJacobTVの話をすることになるとは思わなかった。

2016/08/13

井上ハルカ サクソフォンリサイタル~影と光の対話 B-Side~

関東圏初となる井上ハルカさんの本格的な演奏機会であった。聴きに行くことができて良かった!

安定したベース技術に、ご自身がこだわったプログラミング。また、演奏のみならず「場」としての雰囲気にも神経を使った、完成度の高い、素晴らしいリサイタルだった。この内容に対して、DACという会場は少々小さかったかも知れない、と思ってしまったほどであった。

制御され抑制されたヴィブラートや、音域に関係なくコントロールの効いた音色など、さすがCNSMDPの出身!という感心ごとはもちろんあったが、さらに感じ入ったのはよく響いて拡がっていく輝かしい音色だった。これはもう、理屈ではなく出自(関西方面)がそうさせるのだろうか…と邪推。ベースとなる音色の美しさがしっかりしているので、近代だろうが現代だろうが、どんな曲でも説得力がある。

【井上ハルカ サクソフォンリサイタル~影と光の対話 B-Side~】
出演:井上ハルカ(sax)、松岡優(pf)、有馬純寿(electro)
日時:2016年8月12日(金) 開演19:00 開場18:30
会場:管楽器専門店ダク・スペースDo (東京都新宿区百人町2-8-9、管楽器専門店ダク地下 新大久保駅より徒歩約3分)
プログラム:
クロード・ドビュッシー - アルトサクソフォンと管弦楽のための「ラプソディー」(ピアノ伴奏版)  
ステファノ・ジェルヴァゾーニ - ソプラノサクソフォン独奏のための「ファネス2」[日本初演]
高昌帥 - アルトサクソフォンとピアノのための「ぬばたまの…」  
クリス・スウィシンバンク - ソプラノサクソフォンとエレクトロニクスのための「something golden in the night」
ピエール・ブーレーズ - サクソフォンとテープのための「二重の影の対話」
田中カレン - アルトサクソフォンとエレクトロニクスのための「ナイト・バード」

冒頭のドビュッシーは、ピアノの面白さが際立った。自分がイメージとして持っていた「およそこのくらいの響き」という枠を押し拡げるような、ちょっと聴いたことのない響きが連続した。和声の響きのみならず、各声部がほぐれていくような、柔らかい音並び(テンポも少し控えめ)。ピアニストの松岡さんは、この作品を「初めて弾いた」とおっしゃっていたので、そういうバックグラウンドがそうさせた部分もあったのかもしれない。サクソフォンとしても、難易度の高いヴァンサン・ダヴィッド編の楽譜を相当作りこんであった。技術的な部分をしっかりとクリアして、室内楽としての妙を聴かせるような演奏だったと思う。

ジェルヴァゾーニ作品は初めて聴いたが、特殊奏法を多分に含めつつ、耳に優しい音の並び(まるでポピュラー音楽のような)が、時折混ぜ込まれるのが面白い。全体的にはかなり難易度が高い。その中で作品がもつ繊細さをしっかりと表現することは大変だと思うが、お見事!のひとことである。音符間の時間間隔の伸縮のような雰囲気から、何となく日本作品のようなイメージも受けたが、そういった要素は関係ないみたい。

高昌帥作品は(この日演奏された作品群の中では)際立ってわかりやすく、かつ、聴きやすいものであり、もっと多くの方に演奏されて然るべきものだと思った。もともと、長瀬敏和氏に献呈されたとのこと。サクソフォンの叙情性や機動性を見事に織り込んでいる内容。ハルカさんの演奏は(もちろん基本的には冷静なのだが)ある瞬間では作品へと没入して、その中から何が出てくるかわからないものを引っ張りだしてくるような、そんな個性も垣間見えて、作品と、演奏者の性格との相性の良さ、のようなものも感じた。

休憩を挟んで、後半はエレクトロニクス作品。スウィシンバンク作品は、舞台上に配置されたギミックにスポットを当てて浮かび上がる影絵と、演奏がリンクしていく、というもの。サクソフォン、そしてエレクトロニクスの響きがマッチして、機械のパントマイムを見るような、なんとも言えない不気味さを演出していた。あのギミックはどんな仕組みなのかなあと(意外と回転がスムーズでびっくり。モーターはUSMかな…?)ぼんやり考えるなど。

本日のメインとなる大作「二重の影の対話」は、こちらもかなり気合いの入った演奏。正直、この作品は音運びが速くかつ鋭くて、耳と頭がついていかないのだが、裏付けのある技術と、作品そのものの魅力を伝えようとする立ち振舞いには、大きな感銘を受けた。ちなみに、スピーカーから流れるプレ・レコーディング・パートについても、上手いなあと思いながら聴いていたのだが、なんとハルカさんご自身の録音とのこと。準備も相当大変であったはずだ。エレクトロニクスは有馬氏だったが、相変わらずのみごとな音響セッティングであった。

「ナイト・バード」は、実質的なアンコールのような扱いだった。照明を効果的に利用し、まるで海の中のような音響・視覚効果で魅せ、最後を締めくくるに相応しい。

ということで、お盆二日目、なかなかボリュームのあるプログラムを聴くことができ、嬉しかった。普段あまり活動していない関東圏でのリサイタル開催に対しては、準備や宣伝等難しさがあったと思う。またぜひ関東でも大きな機会を作ってやってほしいものだ。

打ち上げにもお邪魔し、初めてお会いする方も多く、楽しい時間を過ごしたのだった。

写真は、スウィシンバンク作品で使われていたギミックの本体。何の形なのだろう?

2016/08/10

演奏会情報:井上ハルカ氏のリサイタル

金曜日に迫っている井上ハルカさんのリサイタル@DACをご紹介。井上ハルカさんは、ESA音楽院、リヨン地方音楽院を卒業したのち、パリ国立高等音楽院のドゥラングル・クラスに入学。第一過程、第二課程、そして第三課程DAIを修了している。その後帰国し、現在は日本で活躍中。何度か演奏に接したり、録音を聴いたこともある。小柄な身体からは意外なほどのパワフルさ、そしてさすが、最高学府で学んだならではの正確性が印象に残る。今回のリサイタルにあたり、ハルカさんの「演奏のアイデンティティ」といったものを感じられると良いなと、とても期待している。

プログラムとしても、非常に面白い。ジェルヴァゾーニの独奏作品は、以前井上さんが取り上げたこともあるが、ちょっと聴いたことのない(個人的には、音運びにポピュラー・ミュージックの遠いエコーを感じる)響きで、面白いと思う。また、ブーレーズ「二重の影の対話」は、これはちょっと前までヴァンサン・ダヴィッド氏くらいしか演奏できなかったはずだが、国内でも大石将紀氏や佐藤淳一氏につづいて、少しずつ演奏できる奏者が増えているんだなあ…などと感じ入ったり。スウィシンバンク作品は、YouTubeにあるようなギミックの仕掛けも見られるかな…?

ということで、なかなか大掛かりで面白そうなリサイタルになりそうだ。7月の関西公演も好評を博したとのこと。金曜日はみなさんぜひDACへ。

【井上ハルカ サクソフォンリサイタル 影と光の対話 - B-side -】
出演:井上ハルカ(sax)、松岡優(pf)、有馬純寿(elec)
日時:2016年8月12日(金) 開演19:00 開場18:30
会場:管楽器専門店ダク・スペースDo (東京都新宿区百人町2-8-9、管楽器専門店ダク地下 新大久保駅より徒歩約3分)
料金:前売 3,000円 当日3,500円
プログラム:
クロード・ドビュッシー - アルトサクソフォンと管弦楽のための「ラプソディー」(ピアノ伴奏版)  
ステファノ・ジェルヴァゾーニ - ソプラノサクソフォン独奏のための「ファネス2」[日本初演]
高昌帥 - アルトサクソフォンとピアノのための「ぬばたまの…」  
クリス・スウィシンバンク - ソプラノサクソフォンとエレクトロニクスのための「something golden in the night」
ピエール・ブーレーズ - サクソフォンとテープのための「二重の影の対話」
田中カレン - アルトサクソフォンとエレクトロニクスのための「ナイト・バード」
チケット・問い合わせ:
080-3401-0794
harukainoue.contact@gmail.com

2016/08/06

【探しています】ミュールの四重奏演奏SP【拡散希望】

マルセル・ミュール氏が率いていたカルテットのSP盤のうち、以下の2枚をお持ちで、お貸しいただける方を探しています。

Scherzo du quatuor n 41 (Haydn-Meyet)
Ave verum (Mozart‑Meyct)
Columbia df 1805

Chanson d'autrefois (G. Pierne)
Chanson de grand‑maman (G. Pierne)
Columbia df 1807

現在、木下直人さんがミュールの四重奏SPの復刻決定盤準備を進めています。テーブル、アーム、カートリッジを完璧にレストアされたピエール・クレマンで固めた環境で復刻すべく、上記2枚を探しています。もし周りにSPをお持ちの方がいらっしゃいましたら、情報提供いただきたく…何卒ご協力よろしくお願いします。

連絡先:kuri_saxo@yahoo.co.jpもしくはFacebookメッセージにて

東京都吹奏楽コンクール予選を聴きに

西新井文化ホールで開かれていた、東京都吹奏楽コンクール予選として開かれていた、第56回東京都職場・一般吹奏楽コンクールを少しだけ聴きに行った。

夏らしい気候、楽器を持った出演者が溢れるロビー、演奏に向かう出演者と終えた出演者のそれぞれの表情、ロビーの中継テレビ前の群がり、何団体も連続する怒涛/超速の舞台転換、あちこちから聴こえる下馬評…「携帯電話をお切りください」のプラカードを持ったスタッフが客席内を練り歩いているのは初めて見たが(東京都大会オリジナルかな?)。

中学~高校~大学と、コンクールに何度も出演した身にとっては、良い思い出も悪い思い出も様々だが、、、いや、どちらかと言えば、結果を残せなかったという意味で、特に中高は悪い思い出のほうが多いのだが…吹奏楽コンクールの独特の雰囲気がフラッシュバックするには十分な時間だった。当時の思いや緊張感が蘇ってきて、なんだかムズムズしてしまう。演奏を聞いている最中も、演奏よりはその雰囲気のほうが頭の大半を占めていたかも。

ロビーでぼんやりしていたところ、久々に、指揮者のYさんにお会いできたのは嬉しかった。

サクソフォン的興味としては、ジャック・イベールの「祝典序曲(元々はオケ曲で、サクソフォンが1本入っている)」と、ジョン・マッキーの「アスファルト・カクテル(ESPがサクソフォンラージ版で演奏した映像がYouTubeにアップされている)」が演奏されており、ちょっと楽しかった。

2016/07/30

つくばで練習

つくば市でEnsemble Tsukuba(吹奏楽)の練習。懐かしのアルスホールにて。

伊藤康英「古典幻想曲」、メンデルスゾーン「管楽のための序曲」ほか、ブルックナーやグリーグの管楽合奏作品(マーチ)を音出し。

音楽的に密度の高い作品が多く、こういった曲の中でサクソフォンを吹く、というのは他では得難い経験である。楽しかったー。

上野耕路&ヒズ・オーケストラ「ビッグバンド・ルネサンスVol.2」

 BIG BANDの常套手法とはアレンジが容易でグルーヴも出し易い音量バランスがとれた楽器編成、同一演奏スタイルのミュージシャンの集合体:僕はそれらを手放した。
 過去の驚異的ジャズ・アンサンブルを視野に入れつつ再考されるBIG BAND。その答えは 個々の楽器音量比と演奏スタイルはアンバランスかもしれないが、流動的ダイナミズム、室内楽的精妙さ、真新しい歪さなどが現出することとなる。
 それが僕が目指す"BIG BAND RENAISSANCE"
上野耕路

上野耕路氏は、いくつかの特徴的な編成の演奏グループに参加ないし主宰しつつ、大編成のユニット:捏造と贋作、上野耕路アンサンブルなどを経て、近年では、上野耕路&ヒズ・オーケストラを結成し、CDリリース/ライヴ等を行っている。ピアノとヴォーカル、そして管弦打楽器が入り乱れた、強烈な個性を持つバンドだ。昨年、六本木で聴くことができたのだが、初めてライヴで聴いてそれはそれは感動したものだ。→ブログ記事

ということで、今回も楽しみに伺ったのだが、期待以上だった。

【BIG BAND RENAISSANCE Koji Ueno and His Orchestra Vol.2】
出演:上野耕路(pf)、佐々木理恵(fl)、秋山かえで(cl)、曽根美紀(asax)、小池裕美(tsax)、矢島恵理子(bsax)、田澤麻美(tp)、門星涼子(trb)、国木伸光(tub)、服部恵(mrb)、中島オバヲ(perc)、杉野寿之(drs)、真部裕(vn)、多井智紀(vc)、谷嶋ちから(drs)、清水万耶子(vo)、久保田慎吾(vo)
日時:2016年7月28日 19:30開演
会場:Blues Alley Japan
プログラム(すべて上野耕路作品):
Serius B、Oil Barons and Cattle Dukes、Archaeopteryx and Compsognathus、Cosmic Radio、1979、Canis Major、This Planet is Earth!、Volga Nights他

演奏された作品は、「Polystyle」「Sirius B」に含まれるものを中心に、その他にも改作多数。アンコール含めて、なんと計20曲も演奏された。知らない作品もあり、曲名のアナウンスがない場合もあったため、完全なセットリストを書くことが出来ないのが残念だ。

とはいえ、作品名など微塵も気にすること無く、ただひたすらに"上野耕路サウンド"に溺れた3時間。各楽器が、割り当てられた超高速フレーズを無造作なようでいて緻密に演奏する。一聴すると発散した響きなのだが、その中には有機的な関連性と、一致が見て取れ、気がつけば"上野耕路サウンド"が眼前に立ち上がる。才能とか天才、という言葉で一朝一夕に片付けられず、ある種の狂気や異常性(褒め言葉です)すらも感じるほどだ。「アトミックなもの(各パート)にひとつひとつ限界クラスの試練(楽譜)を与え、せーの!と音を出したら凄いものができちゃうから楽しみにしててね!」みたいな。本当に、上野氏だけしか作ることのできない音楽だと思う。

特に、新作「Volga Nights」の面白かったこと!キグルミ「たらこ・たらこ・たらこ」のメロディに、スパークス(ロン・メイル&ラッセル・メイル)が「Volga Nights」という歌詞を付け、さらに上野氏自身が込み入りまくったオーケストレーションを施した、類まれな傑作。10分位はあっただろうか。あまりに密度の高い音楽、そして楽しさに圧倒されっぱなし。

全曲通して、演奏者はとてつもなく大変そう(笑)で、しかし楽しそうだったのが印象的。特に、トランペットの田澤氏のノリ(見た目にも!)はバンドのサウンドの引き締めに一役買っていたようだ。また、今回から加入したというトロンボーンの門星氏も、なかなか味わい深かった。サクソフォン・セクションも鉄壁、ガリガリしたサウンドを随所で楽しんだ。

いやあ、楽しかったなあ。

2016/07/27

ペッテション「交響曲第16番」の録音

実質的なサクソフォン協奏曲とも言えるアラン・ペッテション Allan Petterssonの「交響曲第16番」は、メジャーレーベルからリリースされているものは、長きに渡って以下の2録音しか存在しなかった。

・ユーリ・アーロノヴィチ指揮ストックホルム交響楽団(サクソフォン:フレデリック・ヘムケ)
・アラン・フランシス指揮ザールブリュッケン放送交響楽団(サクソフォン:ジョン=エドワード・ケリー)

つい最近まで知らなかったのだが、次のコンビによる演奏がリリースされてたのだそうだ。2014年の録音、BISからの発売で、BIS-2110という型番が付いている。

・クリスチャン・リンドベルイ指揮ノールショピング交響楽団(サクソフォン:ヨリエン・ペッテション Jörgen Pettersson)

リンドベルイ氏は言わずと知れた指揮者・トロンボーン奏者であり、ノールショピング交響楽団もそこそこ名のあるスウェーデンのオケだが、サクソフォンのヨリエン・ペッテション氏を知っている向きは少ないのでは。スウェーデン出身の非常に優秀なサクソフォン奏者で、スウェーデンのロイヤル・カレッジとフランスのボルドー音楽を卒業後、主に母国で独奏者・教育者として活躍、特に現代作品の演奏に注力し、これまでに献呈された作品は400を超える。特に「Saxophone Con Forza(Phono Suecia)」と題されたCDは、作品の強烈さと演奏のレベルの高さから、大変興味深いもので、私も時々取り出しては聴いている。ダールの「協奏曲」のCDもあるのだが、それもかなり良い。

そのような演奏者でのペッテション「交響曲第16番」の録音、聴いてみたが、なかなかの演奏。手に入りやすかったザールブリュッケン放送交響楽団の演奏は、少々線が細く、この曲が持つ重量感を表現するには少々不満な部分があった。今回のリリースは、メジャーレーベルのBISからということで手に入りやすく、内容も良い。やはり個人的にはヘムケ氏が参加した盤が好きなのだが、いかんせん手に入れづらく…今後、「ペッテションの交響曲聴きたいんだけどどのCD買えば良い?」と質問されたら、このBIS盤を勧めることになると思う。そんな質問が来るとは思えないが。

メイキング映像をYouTubeから参照可能。リンドベルイ氏が、ヘムケ氏についてもちらっと触れている。

2016/07/21

Xiaomi "Mi Portable Bluetooth Speaker"

シャオミ(Xiaomi)製のBluetoothスピーカーを買ってみた。

いままで使っていた、メトロノームを鳴らすための、安くて小型の、内蔵充電池で駆動するスピーカー(これとかこれ)を置き換える目的…だったのだが。

届いてみて箱から取り出して驚き。まず、見た目がとても上品。おそらく削りだしのアルミニウム製で、表面はつや消しのグレー、縁は鏡面仕上げとなっている。直径は5cm強、高さは2.5cm弱といったところか。上面の穴が音の出口だが、加工精度は高い。充電口と電源スイッチは底面に配置されている。インテリアとして考えても優秀なほどのデザインで、テーブルにちょこんと置いておくのにも違和感がない。

そして、音楽を再生してさらにびっくり。モノラル、しかもたった2Wの出力にも関わらず、意外すぎるほどの音量と、音の拡がりに驚かされた。無指向性…ではないはずだが、それに近いものを感じる。音質も癖がなく、このサイズからは信じられないほどの低音が出てくる。硬い木のテーブルの上に置くと、共鳴してさらにしっかりした音で鳴ってくれるのだ。メトロノームを増強する目的で買ったのだが、ちょっと勿体無い、と感じてしまったほど。寝室用スピーカーとか、ダイニングでちょっと鳴らす時とか、良いかもしれない。屋外で鳴らしたらどう聴こえるかな…さすがにパワー不足だろうか。

オモチャとして買い、メトロノーム用に雑に使い倒すことを考えていたのだが、意外すぎるほどのデザインと機能性。ちょっとした贈り物にも適しているかもしれない、と思うほど。

Banggood.comというサイトから購入した(→このページ)。現在のところ、普段の価格に比べて半額で売られており、日本円にしておよそ1400円くらいで意外と安いのも、購入に至った理由だ。香港かどこかからの発送で、送料が無料というのも凄い(到着まで非常に時間がかかる上、梱包が超適当だが)。

縁を拡大。遠目にはわからないのだが、拡大するとしっかり鏡面加工されているのがわかる。

2016/07/20

Hyppolite Poimboeuf氏について少し…

マルセル・ミュール Marcel Mule氏がギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団在籍中に結成したギャルド・レピュブリケーヌサクソフォン四重奏団 Quatuor de saxophones Garde Republicaineは、以下のメンバーで成り立っていた。

Marcel MULE, ssax
René CHALIGNÉ, asax
Hippolyte POIMBOEUF, tsax
Georges CHAUVET, basx

ミュール氏はもちろん、バリトンのショーヴェ氏はその後も同四重奏団での活動を続けていたため、録音でも長きに渡って音を聴くことができ、また経歴としても分かる部分がそれなりに多いのだが、内声の2名の経歴がほとんどわからないのだ。特に、一度見たら忘れない風貌の(ギィ・ラクール氏にしろ、ジョルジュ・シャロン氏にしろ、なぜミュールのカルテットのテナー奏者には一度見たら忘れない方が多いのか)、テナーのイポリット・ポワムブフ Hippolyte POIMBOEUF氏について、少し調べてみたところ、面白い記録を見つけた。

エイトル・ヴィラ=ロボス Heitor Villa-Lobosの作品に、「Choros No.3 [Male Choir/Cl/Asx/Bs/Ob/3 Hn/Trb]」という作品があるのだが、その世界初録音(1927年)でアルト・サクソフォンパートを担当したようなのだ。以下がクレジット。インターネット上を始め、幾つかの箇所でこの情報を目にすることができる。このディスクは、グラモフォンから発売され、Disque Gramophone GW-914という型番がついている。おそらく商用流通したものに間違いはなく、もし未だに現存するならぜひ聴いてみたいものだ。

Louis Cahuzac (clarinet)
Hippolyte Poimboeuf (alto saxophone)
Gustave Dhérin (bassoon)
Edmond Entraigue, Jean-Lazare Pénable, and Mr. Marquette (horns)
Jules Dervaux (trombone)
Robert Siohan (conductor)

ちなみに、他にポワムブフ氏についての情報を探したのだが、「ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団にテナー奏者として在籍していた」「ギャルド・レピュブリケーヌ・サクソフォン四重奏団のメンバーとして1928-1932年の間に活動した」以外の情報をまっっったく見つけることができない。どのようなキャリアを経てギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団に入団し、その後はどのような活動を展開したのか。とても気になっている。

2016/07/18

タージ・エキゾティカ・リゾート&スパ・モルディブ滞在記

新婚旅行で、インド&スリランカの南西、インド洋に浮かぶモルディブ共和国の"タージ・エキゾティカ・リゾート&スパ"にて、2016/4/12-16の5日間滞在した。とても楽しく、ひたすらリラックスできた、忘れ得ない旅となった。少し長くなるが、旅行記を残しておく。

羽田空港22:50発のシンガポール航空便に搭乗し、シンガポールのチャンギ空港へ。機材はボーイング777-300。およそ7時間のフライト中は、ほとんど寝ることができなかった(以前のヨーロッパ行きの際もそうだったのだが、飛行機の中で寝るのはどうも苦手…)。機内で夕食をとったのち、本を読んでいると、シンガポール航空の新婚旅行者向けのサプライズで、ケーキとシャンパンのサービスが!どちらも大変美味しくいただいた。

チャンギ空港に到着すると、夜明け前にも関わらず、まるで日本の夏のような高温多湿の気候。到着ロビーで1時間ほど仮眠を取ったあと、妻の知り合いの方とともに朝食をとった。チャンギ空港からモルディブの首都マーレへは、同じくシンガポール航空便、ボーイング777-200で4時間ほどのフライト。出発直前にスコールに見舞われ、出発が30分ほど遅れた。機内は搭乗率50%くらいだったか、意外と空いているなあと思った。

マーレに到着すると、窓から目に飛び込んできたのはエメラルドグリーンの海!これまでの人生で見たことがないような美しい色だった。飛行機から降り、肌を刺す日差しは強いが、意外と暑くない。モルディブは、数百?の環礁(島)が集まって形成された国である。そのうち200ほどの環礁に、それぞれリゾートホテルが建設されている。ひとつの環礁にはそのリゾートホテルしか存在せず、マーレから先は移動はホテル任せ…となる。ということで、空港からは、ホテルのスタッフが操縦するスピードボートでタージ・エキゾティカへと移動した。

マーレから南の方向へ。15分ほどのスピードボートでの移動は、青く濃い海の上を、滑るような快速で移動…と思いきや、環礁に近づくと、とたんに海が明るいエメラルドグリーンに変化したのだった。海の底まで見通せるような透き通った色合い、この世界にこんな色があるのか、というほどのもの。

島の桟橋に到着すると、タージ・エキゾティカのスタッフが出迎えてくれた。そのまま、日本人スタッフのYUKIさんが運転するバギー(スタッフが運転する島の移動手段)に揺られて、直接、滞在先の水上コテージまで案内されたのだった。部屋のローテーブルには、フルーツと、毎日サーブされるボトル入りの水、新婚旅行者向けにケーキとココナッツジュースが並べられ、ソファに座りながらリゾート内施設や注意事項等の説明を受け、チェックイン手続きを行った。レセプションにも寄らず、荷物は預けっぱなしで部屋まで移動して、部屋でチェックイン手続きだなんて、「ここはディズニーランドか!」と思ってしまうような段取りの完璧さで、のっけから驚いてしまった。

宿泊したコテージは、島から延びた桟橋に造られたDelux Villa with Poolという部屋。エントランスには、2つのクローゼット、金庫、衣装ケース。主寝室には、キングサイズのベッド(ベッドやソファの本体はシンガポールのPLOH製、シーツはイタリアのFRETTE製)、2つの鏡付きサイドテーブル、ローテーブルとソファ、小型テーブルと椅子、テレビ(SONY製)、電気スタンド、冷蔵庫、ケトル、各国のプラグ対応のアダプタ、無料のWifi(速度は遅いが、メールやLINE等であれば余裕)等々…窓からはデッキ越しに海を望むことができる。窓の日除けは遮光機能もある。浴室には、2つの鏡&洗面ボウル、大きなTOTO製の浴槽、お手洗いもTOTO製、ウオシュレット付き。浴室とデッキはドアで繋がっており、接続部分には海水を落とすためのシャワーが備え付けられている。デッキには、常に水が循環しているプール、3組のデッキチェアと1つのテーブル、海に降りるためのハシゴも。屋根は茅葺き。内装・外装は木製を基調としており、とても落ち着きがある。

さらに驚くのは充実したアメニティの数々。石鹸、ボディソープ、シャンプー、コンディショナー、シェーバー、コーム、マウスウォッシュ等、基本的にすべてイギリスのMolton Brown製で統一されている。バスローブはシンガポールのPLOH製(バスローブの概念が覆るフワフワ感)、スリッパとサンダルも用意されている。フェイスタオルは2人分2組、ハンドタオルが2人分2組、バスタオルは2人分2組+外のデッキチェア用2人分1組がそれぞれ1日2回(!)のベッドメイキングごとにすべて取り替えられる。過剰とも思えるサービスに、凄いと感じるのを通り越して怖くなってしまったほどだ。

さらに2点ほど挙げると…マーレの空港到着時にメガネを壊してしまったのだが、スタッフに預けた所、まず現地のテクニカルスタッフで修理可能か調べてくれ、それでも修理不可能であることがわかると、マーレへの輸送による修理を提案された。「いやいやそこまでやらなくても」と思い、結局強力な接着剤を借りることで何とかした。もう1点、妻宛てに花束を用意してもらったのだが、想像以上の大きさとズッシリ感で、贈ったこちらもびっくりしたのだった。とにかく、何をお願いしても、こちらの期待を上回るサービス。タージ・エキゾティカのホスピタリティの高さを感じた。また、もし滞在中に何か追加料金が発生する場合は、その場で確認書に部屋番号とサインを書けばOK。つまり、カードを持ち歩く必要がなく、手ぶらで過ごせるということで、そんなところも非日常を演出するのに一役買っていたと思う。

荷物を整理し、まずはデッキでのんびり。フルーツを食べながら、青い空とエメラルドグリーンの海を眺める。時間の進行は外界と断絶され、時計が意味を成さなくなる。気温は30度そこそこ。湿度も高いが、弱い海風が常に吹いており、日陰にいれば不快に感じることはまずない。1時間ほど過ごしていただろうか、灰色の雲が広がり、スコールが襲ってきた。わずか20分ほどの強い雨ののち、気温が少し下がって再び晴れ間が見えてくる。何をするわけでもなく、空と海の移ろいをずっと眺めていた。水上コテージを出ると、なんと虹が!

この後、夕暮れの時間に島を散策してみた。共用のメイン・プール(インフィニティ・プールという名前は、プールと海辺がつながっていることから名付けられたのだろう)では、なんと鳥が水浴びをしている。少し進むと、白い砂浜が…夕日の時間帯であることも相まって、絶妙なグラデーションが眼前に拡がり、しばらく立ち尽くしてしまった。さらに日が落ちると、桟橋始め、島の各所がオレンジとブルーにライトアップされ、神秘的そのものといった雰囲気に包まれた。

夕食は19:00から。散策ののち、少し時間があったので、レセプションで休んでいると、なんとYUKIさんがグァバジュースをサーブしてくれた。これがまたしぼりたてで甘く美味しかった。

夕食は、24 Degreesというレストランでとった。朝食夕食付きのプランだったのだが、夕食についてはアラカルトで、好きな前菜とメインを1皿ずつ選ぶことができる。1皿ずつとはいえ、相当な量があり、お腹いっぱいになってしまう。飲物は別料金(日本の2倍~3倍位の値段で、リゾート価格相応といったところ。例えばコロナビールは10USD)。そして、肝心の味。タージ・グループの食事は、インド資本ということもあり、食事が大変美味しいと評判を聞いていたのだが、期待以上とはこのことだ。この日、私は何とかというクリーミーなスープと、バターチキンカレーを頼んだのだが、食べたことのない美味しさ、しかも日本人の口にも合うようなもので、またまた驚きと幸せを感じたのだった。食事中のホールスタッフのささやかな気遣いも、言うことなし。料理は、インド系のみならず、欧米系、アジア系と、幅広くラインナップされており、目移りしてしまう。

お腹いっぱい満たされた気持ちで、水上コテージに戻ろうとすると、水上コテージの桟橋がやはりオレンジとブルーにライトアップされている。非日常の風景とはこのことだ。この日は、疲れもあって、早々に寝入ってしまった。

時差ボケのせいか、それとも早く寝たせいか、朝4:00頃にふと目が覚める。どんな星空が見えるかなとデッキに出てみると、まさかの天の川が空いっぱいに広がっていた。天の川を天の川として認識しながら見たのは人生初だったかもしれない。本で見たとおり、いや、それ以上に、あまりに美しく、ちょっと涙ぐんでしまうほどだった。日本では見えないような星もたくさん。

再び寝入るつもりが、なかなか寝付けず…。この旅行用に調達したXiaomi Yiというアクションカメラを、水上コテージの入口付近に仕掛けて、タイムラプス動画の撮影に挑戦。空が白んで朝日が上ってくる様子を克明に捉えることができた(→これ)。ようやく起きる時間。海に飛び込み、顔を洗ってスッキリし、朝ごはんに出かけようとするとはらはらと小雨が。いったん水上コテージに戻り、ぼんやりと雨が止むのを待つ(時間を気にする必要はないのだ)。雨が止んだのを見計らって、呼んだバギーで朝食会場の24 Degreesへ向かった。

朝食付きのプランは、なんとメニューにあるものならオーダーし放題。まずパンとフルーツがサーブされるのだが、パンは軽く焼いて出してくれるし、フルーツも上品な味・量。どちらもとても美味しい。フレッシュジュースは、搾りたて。メニューには東西の料理が満遍なく揃う。頼んだのは、エッグ・ベネディクト、フレンチトースト、なんとかというミルク粥、インドの卵焼き。ここまででもお腹いっぱいになったが、さらにハムとパンケーキを頼み、どれもとにかく美味しいものばかりで、すべて平らげてしまった。昼食が食べたくなるのかなと思ったのだが、朝食でこれだけの量を、これだけゆっくり食べると、もう昼食を食べようという気が起きなくなってしまう。

朝食後は、ダイビングセンターへ。シュノーケリングのセットを無料で貸し出してくれるのだ。砂浜を歩きながら水上コテージに戻ろうとすると、いろいろな場所にパラソルとデッキチェアが置かれているのが目に入った。デッキチェアには、クリーニング済みのタオルが置かれ、ボックス内にはなんと冷えたミネラルウォーターのボトルが入っており、自由に飲んでOK。至れり尽くせり。

コテージへと戻り、デッキのプールでひとしきり遊ぶ。また、海へと降りて、レンタルした防水カメラで水中の撮影にもトライしてみた。海の中は、特に岩場やサンゴ礁の近くには魚がたくさん泳いでおり、苦労しながらも多くの写真を撮ることができた。シャワーを浴びて、昼寝。この辺りから、頭が緩みっぱなし。

夕暮れが近くなってきたので、Equator Barというビーチ沿いのバーへ向かってみた。飲み物をオーダーすると、一緒にピーナツとカレー味の不思議なナッツがサーブされる、この不思議ナッツ、大変美味しかった。Xiaomi Yiのタイムラプス動画をセットし、夕日を眺めるが、出てくるのは「キレイ」という言葉、ただそれだけ。時間も気にせず、ただひたすらに空と海を眺める、贅沢な時間だった。

夕食はDeep Endという、海上に建てられた予約制のレストランで食べた。おすすめされたのは大きなロブスター。大きな…ってどのくらいか、わくわくしながら待っていると、想像の1.5倍くらいあるような超巨大ロブスターがサーブされた。半分に割られ、片方はクリーム味、もう片方は塩味が付けられている。身は、味がしっかりしていて、調度良い硬さ。これも驚きの美味しさ。きっと新鮮な食材を使っているのだと思うが、それにしても、こんな離島でどのように食材管理しているのか、不思議だ。デザートのチョコ一人分を、部屋で食べるために包んでもらうと、なぜか二人分包まれていて、またまた驚き。

再び朝の4:30に起きて、天の川の写真撮影にトライ。デッキに三脚を立て、フィッシュアイレンズを使って、30秒間の露光と高感度ISO、そして注意深いピント合わせで、教科書で見たような星空がくっきりと映し出された。また、コテージ外では、コテージ群と天の川をフレーム内に収めた写真を撮ることができた。

朝、少し早く起きると、ほとんど風を感じない。波もとても穏やか。海へ降りると、たくさんの魚が泳いでおり、ひとしきりXiaomi Yiで撮影を楽しんだ。このカメラ、水中でもとても綺麗に撮ることができ、なかなかの活躍ぶりだ(この写真は水上から一眼レフで撮影したもの)。

この日も24 Degreesでゆっくりと朝食をとった。毎回サーブされるパンとフルーツ、それにアメリカ風のオムレツ、ベトナムテイストの豆腐の和え物、中華まん、卵のカレー炒めとパン、フライドオニオンが乗った粥、等々。何を頼んでも、一切ハズレ無し。ハズレどころか、とにかく美味。

朝食を終えて、浜辺を散歩しながらコテージに戻ろうとするが、木陰のデッキチェアでついつい惰眠を貪る。そよ風と、美しい景色。ここまでリラックスできたことが、これまでの人生であっただろうか。身体が芯から溶けて、景色と同化していくような、そんな感覚だった。

部屋に戻って、部屋から海へと続くハシゴを使い、海へ。コテージ近くの岩場やサンゴ礁まで泳いでいって、Xiaomi Yiでひたすらムービー撮影を楽しんだ。また、自撮り棒の先にXiaomi Yiを付けて、コテージ近くに寄ってきた魚を撮影した。

少し部屋で昼寝したのち、14:00からスパ"Jiva"へ。オイルマッサージを受けるのは初めてだったが、至福の時間だった。こちらに来て良くなっていた血行が、さらに良くなった感じ。2時間後、オフロでオイルを洗い流してリフレッシュ。

夕方からは、乗り合いのクルーズへ。海は凪いでおり、場所によってはまるでシルクのような、見たことがないようななめらかな海面が広がっている。そんな中を、船がスイスイと進んでいく。カメラを抱えて、海の様子や夕日を撮りまくった。しばらく行くと、なんと海中に何匹ものイルカが!(水族館でなく)海でイルカを見たのは初めてだ。さらに、操舵士が大きな円を描くように船を走らせ、波を立てると、いるかがその波に反応してジャンプ。波と戯れて遊んでいたのかな。夕日をバックにイルカがジャンプ、などという、旅番組でしか見たことのないようなものを目の当たりにした。ひとしきりイルカを眺め、沈みゆく夕日を眺めながら帰投。

さすがにちょっと疲れて、部屋でひとやすみ。その後、24 Degreesで夕食へと向かった。前菜には海鮮系の寿司、エビのてんぷら、イクラの何か、小麦粉を焼いた何か、等。メインは、リゾットとバターチキンカレー。ビール(さすがにちょっと高いが、まあこの時だけ…)もオーダーし、夜風に吹かれながら食事を楽しんだ。真っ暗な中に食事のための灯りが点っているのだが、不思議なことに蚊や小虫がほとんど寄ってこない。部屋の注意書きに書いてあったのだが、人体に無害な天然素材の忌避剤だか殺虫剤だかを使って、虫が寄り付くのを避けているのだそうだ。さすがリゾート、そこまでやるのか…。

お腹いっぱい満たされて、コテージへと戻る。水上コテージの桟橋下、海中のブルーライトアップの中には、魚影がいくつも見えた。

朝、この日も良い天気。朝から暖かく、朝食前に海へと降りてみた。水中には中型魚から小魚までたくさんの魚が集まっており、泳ぎながらカメラで動画を撮影し、ひとしきり遊ぶ。近くの岩場に魚がいそうな波が立っており、泳いで向かってみると、白い縞模様の魚がたくさん泳いでいた。

朝食は、ビビンバ、カレー味のピラフ(インディカ米)、ホワイトオムレツ、キッシュ、ワッフル、ハム&サラミ盛り合わせ、そしていつものパンの盛り合わせとフレッシュジュース。どれも出来立てで、美味。この日も、1時間半ほどかけてゆっくりと食べた。もはや頭の回転がモルディブ仕様になってしまい、時計を見ることも少なくなり、余計なことを考えることもなくなり(ただし、あと1日半しか滞在できない、というタイムリミットは頭の隅からじわじわと)、休暇後、仕事復帰ができるかどうかが心配になってきた。

朝食後、ハネムーン特典のフォトセッションがあった。若いカメラマン(カメラはNikon D7200だったか)の指示で、ハンモックの上や浜辺、桟橋、ウェディングパビリオンで撮影。言われるがままポーズを撮って、さらに1ロケーションに数枚、という程度、どんな写真が撮れるのかちょっと心配にもなったのだが、良い写真ばかりで驚いた。さすがプロ、と唸ってしまった。どのロケーションも明るく、デジタルカメラには良い環境…とはいうものの、さすがである。日差しの下で何枚も写真を撮るのはさすがに大変だが、面白さのほうが先立った(写真はあまり関係ない1枚)。

フォトセッションの後は、浜辺でひとしきりシュノーケリング。岩場やサンゴの近くには、色とりどりの魚が集まっている。浅く綺麗な色の海で、日差しを浴びながら…。水中カメラは2台持って行ったのだが、私と妻それぞれが1台ずつを持ち、お互いそれぞれを撮影することができたのだった。

午後はフォトセッションで撮った写真の選択へ。プレイルームという、クーラーが効いた涼しい部屋で、テレビに映し出された写真を観ながら、ゆったりと選ぶ。USBフラッシュメモリに入れて持ち帰る写真を選び、1枚はプリントしてくれる、というサービスも付いていた。続いて24 Degreesに赴き、名物の"タージバーガー"を味わう。とにかく大きなバーガーで、2人でちょうど良いくらい。もちろん味は最高で、付け合せのフリットも美味しかった。そして、ビールにもとても合うこと!タージ・エキゾティカに泊まった方のレビューに必ずと言って良いほど登場するこのタージバーガー、確かに強烈な印象を残した。

一度コテージへ戻り、夕刻までグダグダ。写真とUSBフラッシュメモリを受け取りに一人でプレイルームへ行き、帰ろうとすると、まさに日が沈もうとする時刻。慌ててコテージへ戻ると、ちょうど妻が出てきた。インフィニティ・プール脇へと移動して、人をダメにするクッションに座りながら、沈む太陽を眺めた。連日、夕刻には雲がかかっていたため、「水平線に沈む太陽」を見たのは、この日が初めて。掌に太陽が載っているような写真を撮ることができた。水面に映る夕日の光と、太陽そのものの美しさの共演が、なんとも形容しがたい景色だった。

夕食は、ハネムーン特典のコース。前菜と魚/肉、そしてデザートのチョコムースとチョコケーキ。とっても美味しいのだが、ちょっとボリューム感が過ぎてる…か。デザートが出てくる頃には、お腹いっぱいになってしまった。ところで、ここで出された赤ぶどうのスパークリングジュースが大変美味しく、日本に戻ってから銘柄を調べたのだが、妙に安くて拍子抜け。まあ、美味しいものは美味しいのだから良いのだけど(笑)。他にもいろいろなコースを選べたのだが、一つしか選べないのは悔しくもあり、だからこその特別感もあり、かな。ゆっくり歩いて部屋へと戻り、お風呂でさっぱりして床についた。

朝。ついに出発の日。とにかく名残惜しいが、今日の昼にはタージ・エキゾティカを発たなければならない。部屋から見える青い海と空、美しい海に泳ぐ魚たち、充実したホテルの設備やスタッフの対応、美味しい料理、何よりもここでしか味わえない空気感は、一生に一度のハネムーンに相応しいものだ。名残惜しさから、水上コテージのテラスに出て魚たちが来ないか待つ。しばらく待っていると、角付きのブサイクな顔をした魚が寄ってきた。このコテージから何度も見た魚だ。他の魚たちも寄ってきて、しばし名残惜しみながら魚と戯れた。

朝食は、相変わらずの美味。ひとり3皿頼んで平らげる。メニューはこの日までにほぼコンプリートしてしまった。最後にはお好み焼きと味噌汁のセットまで頼む有様(意外なほどにこれまた美味しい)。ちなみに、毎回頼んだのはサラミと生ハムのセット。ふわふわの食感、味もしっかりついており、本当に飽きないのだ。

茅葺屋根の下でゆっくりと食事を楽しんでいると、スタッフが葉っぱで魚や鳥を形作って妻に渡してくれた。なんて器用な、すてきなサービスだ。また、隣のテーブルの親子連れの子供が、自由に周りを飛び回っていて、ちょっかいを出してくるものだからついついこちらも反応してしまうのだった。2時間ほどかけて、そんなまったりとした時間を楽しんだ。

部屋に戻って荷造り。手がゆっくりとしか進まないほど名残惜しい!バギーでレセプションへと送ってもらい、精算。ゲストノートに妻が書き込み。最後にスタッフの方からアルバムを頂戴し(モルジブ仕様の素敵デザイン)、スピードボートへ。YUKIさんほかスタッフに見送られ、あっという間に島から離れてしまった。

マーレに着くと、空港の喧騒から、一気に現実に戻ってきた感じを受ける。おみやげを少し選んで、ラウンジではフルーツなども食べることができ、ゆったりと過ごせた。少し待つとあっという間に搭乗時間。離陸の瞬間はあっという間で、旅の終わりはあっけなく、寂しいものである。12:50マーレ発のシンガポール行きで、4~5時間のフライトだった。シンガポールのチャンギ空港では、ターミナル移動が少々大変だったが、あっさり乗り継ぎ。さらに7時間ほどのフライト。4/17の6:35に羽田空港へと到着した。

これまでの人生で経験したことのないような、まさに夢のような数日間だった。この世に、こんなに素晴らしい場所があるなんて…と、一日を終えるたびに感じ入り、そしてこの日々が終わってほしくないと願うような、そんな稀有な体験ができた旅だった。

言わずもがな、海外を旅する目的には、様々なものがある。歴史上重要な史跡を巡ったり、芸術に触れたり、自然を体感したり、人と触れ合ったり、演奏したり。今回の旅は、そういった何か自分から何かを探し求め、理解して、咀嚼する、というものとは全く正反対で、ただただ優雅な時間を享受する、というだけのもので、他人に何かを自慢できたり、といったものではないのだが、人生に一度の新婚旅行、こういった過ごし方も良いなと思ったのだった。