2007/05/29

和声?対位?

パソコンが壊れると、途端にCDをじっくり聴く時間ができる。これはこれで、悪くない(その代わり、ブログの更新はお昼休み時間中になってしまうのだけどね)。

昨晩は、アルモ・サクソフォン・クヮルテットの「四重奏の日々パート1」を取り出してきた。プラネルの「バーレスク」に始まり、ドビュッシー/中村均一編「ベルガマスク組曲」やバッハの「イタリア協奏曲」など、気楽に和音とメロディを楽しむことができる作品集だ。アルモ特有の几帳面な和音に、どこまでも明るいその音色。プログラムと演奏の相乗効果が、ここまで顕著に現れた例は、他にはあるまい。

アルモの「ベルガマスク」を聴きながら思い出したのは、昨年東京文化会館で聴いたハバネラ・サクソフォン四重奏団の演奏だ。第1楽章「プレリュード」の冒頭は、数オクターブの隔離による分厚い和声から始まる。アルモの、まるでオルガンで弾いたような演奏が刷り込まれていた私は、ハバネラの軽い吹き方と編曲に、随分と違和感を覚えたものだ。続くラヴェルや、イタリア協奏曲の演奏も、例えばアルモやトルヴェールの演奏と比較したときに、同じ傾向だったような気がする。重厚な和声から差音が聴こえてくる…というのが理想だと考えていた私には、演奏の凄さとは別に、けっこうなカルチャーショックを受けた。

そして、その感覚を意識しながら、持っているCDを片っ端から聴いてみたところ、日本人とフランス人の間には、確かに和音の捕らえ方に感覚の差を聴き取ることができのだった。

和声ベースのサウンド作りをする日本の四重奏団たちは多い。雲Qさんなんかその典型だし、アルモだって名前からして(笑)和声重視っぽい感じだし、トルヴェールも活動初期のアルバムを聴くと音の厚い重なりを聴き取ることができる。

相反して、フランスの四重奏団。デファイエ四重奏団やハバネラ、そしてあのアドルフ四重奏団の演奏などを聴いていると、和声の構築に関して実に適当?であることがわかるのだ。その代わり、横に流れる細い糸を絡めて、たぐって、織り成していくような繊細さを重視しているような気がする。そういえば、クローバーもこちらの傾向が強いサウンドだったな。

誤解を恐れず真っ二つに分けてしまうならば、アンサンブルにおける「縦の構築」と「横の構築」だ。「縦の構築」は、同一時間点での音楽作りを基礎としたもの。和声重視。対して「横の構築」は、時間軸方向ベースとした音楽作り。旋律線重視。どちらもそれぞれに良さがあるが、フランス人から見た「縦の構築」音楽は、どんな風に聴こえるのかな。

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閑話休題。デザンクロの「四重奏曲」って、聴けばわかるが、「縦の音楽」である和声的書法と「横の音楽」である対位法的書法がめまぐるしく入れ替わるのだ。第3楽章を例にとって、楽譜を少し載せておこう。

日本人だったら大好きでしょ、この最初のフレーズ(私も大好きです)。セブンスの響きがサイコーですよね。


あと、これとか。サックスにとってはかなり低い音域での5度進行(和声に厚みが出る)。リズムもかっこよい。


対位法的書法の最たるフレーズはこのあたりか。4本がまったく別の動きをしていることに注目。デファイエかハバネラあたりの演奏で、ここを聴いてみてくださいな。てんで4本ばらばらに吹いているかのようなのに、とっても綺麗。

2007/05/28

パソコンが壊れた

WindowsXPのロゴ画面表示→ガリッガリッガリッ→再起動…の繰り返しになってしまった。ハードディスクが壊れたのか…。

そんなわけで、更新がいくらか滞るかもしれません。

2007/05/27

ドゥラングル教授、次のCDは…?

あまり確定的な情報ではないのだが、クロード・ドゥラングル Claude Delangle 教授の次のCDの情報。BISレーベルからのリリースで、どうやら、クリスティアン・リンドベルイ(クリスチャン・リンドバーグ)指揮Swedish Wind Ensembleとの共演モノになる模様。レコーディングは本年中に行われる予定だそうだ。

でも、これが吹奏楽との協奏曲集だとしたら、どんなプログラムになるんだろうか?すぐ思いつくところで言うと、ダール、クレストン、フサ、ブールデンあたり。…まさか長生氏の「英雄の時代」や「He Calls...」じゃないだろう?田中久美子さんのランベルサール作曲コンクール入賞作とか?改めて考えると、吹奏楽バックのサクソフォーン協奏曲って、あんまり出てこないな。

…って、「Under the Sign of the Sun(BIS)」が出たばかりだと言うのに、気が早すぎますね。何はともあれ、楽しみに待つこととしよう。

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(追記)
少し探したら、暫定プログラムが見つかりました。こんな感じ。

・ポール・クレストン「サクソフォーン協奏曲」
・ジョン・ウィリアムズ「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンよりエスカペイズ」
・ロジェ・ブートリー「コンチェルティーノ」
・ピアソラのコンサート・ピース 他

うーん、意外と軽めの曲目が多いなあ。どんな演奏になるんだろうか。

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そういえば、今年のIRCAMのアゴラ音楽祭では、ブーレーズ「二重の影の対話」サクソフォーン版を、ドゥラングル教授が演奏するんですかあー!(こちらのサイトからの情報)おまけにジョドロフスキの「Mixtion」までプログラムに入っているではないか!アゴラ音楽祭、一度でいいから聴きに行ってみたいのだが、よほど時間とお金に余裕がない限り、無理だろうなあ。

久々に練習

一週間以上楽器に触らなかったというのも、久々かも。とりあえず、ロングトーンとスケールを吹いた後に、切羽詰っている楽譜を一生懸命さらう。記譜でミーソッラドレーッドッソ#ソーファーソラー…のフラジオが連結しない。結局、12小節ほど進んだところで、練習終了。ついでに例の曲も少しさらって、いちおうミス多発でも通せるようにはなった。

それにしても、譜読みの遅さ…特に左手サイドキーが出てくる楽譜になったとたんに遅くなってしまうのは、何とかならないもんか。昔から、吹奏楽の中でバリトン・テナーを主に吹いてきたため、ほとんど慣れないまま、ここまで来てしまったのだ。指と掌が分離しないことこの上ない。きちんと昔からスケール練習をやっておけばよかった。

現役の団員が練習場所を使っていない水曜か木曜、あと土曜の午前中と日曜は、できるだけ練習しようっと(と、この場で公言することで、自分に対して縛りを入れようかと思いまして)。

2007/05/26

デザンクロ「四重奏曲」 on YouTube

時々このブログに貼り付けるYouTube上の動画は、演奏の質も画質も音質も、できるだけクオリティの高いものを…と選ぶようにしている。となると、必然的に有名奏者の動画ということになっていたのだが、今回は珍しく、かなりマイナーな四重奏団の演奏を貼り付け。曲は、なんとデザンクロの「サクソフォーン四重奏曲」だ。

演奏は、Cuarteto Quantz。おそらくスペインの四重奏団と思われる。「えっ、スペイン!?」と驚かれる方もいるかもしれないが、スペインのサクソフォーン界は、アントニオ・フェリペ氏(アドルフ・サックス国際コンクール3回連続入賞)を始め、近年では優秀なサクソフォニストを数多く輩出しているのだ。メンバーは以下のとおり。

ソプラノサックス:Antonio Pérez
アルトサックス:Manuel García
テナーサックス:José Manuel Bañuls
バリトンサックス:Mario Ortuño

うーん…、正直聞いたことがない奏者ばかりだが…?

実際のムービーがこちら。ぜひ全楽章ご覧くださいな。実に洗練されたテクニックが繰り広げられていることに、きっと驚くこと間違いなし。しかもなんと暗譜だ(ところどころ音は間違っているけど)。仮に日本のCDショップで市販されていたとしたら、このレベルの演奏なら普通に買うぞ。"玉石混合"YouTubeからの掘り出し物とは、まさにこのこと。

・第1楽章 Allegro ma non troppo


・第2楽章 Andante


・第3楽章 Poco largo, ma risolute - Allegro energico


実はこれ、Ciutat de Manresaというコンクールでのライヴ演奏なんだそうだ。Cuarteto Quantzは、そのコンクールの室内楽部門(異種混合)で見事優勝を果たしたサクソフォーン四重奏団だとのこと(このサイトで知った)。他の編成と勝負して勝った、その瞬間を捉えたムービーだということで、そりゃあ上手いわけだ。

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(おまけ)

同じ四重奏団による、ファリャ「歌劇"はかなき人生"より『舞曲』」のサクソフォーン四重奏版の演奏。こちらも相当(編曲・演奏とも)良いです。

悪寒

著作権がらみの納得できない判決って今までもいくつか出ていたけれど、今回のこの判決は、さすがに「インターネット上のサービスが崩壊する!」という悪寒を覚えた。目を疑っていろいろ調べていったところ「裁判所と言えど、『間違った』判決を下すこともあるんだなあ」という、別の意味での悪寒に変わっていったが。

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http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070526k0000m040090000c.html

これ、きちんと判決に従うならば、ウェブ上にデータを個人データを保存するサービスは、著作権が適用されるデータをユーザがアップロードした途端、違法と言うことになる…。しかも責任を問われるのはサービスを提供する側ときたもんだ。「自分専用のデータストレージサービスに、音楽や画像のバックアップを保存」って、私も普通にやっているけど…。

「えええっ、なにそれ!?」と思って少し調べてみたら、兎にも角にも、今回の判決を下した裁判官である高部真規子さんという方は、ストレージサービスに対して無知な方のようだ。それならばしょうがない。上告?控訴?して、きちんとした結論が出てくれるならば良いや。

例えば、ウェブを全く知らない人に、「ストレージサービスってのがあってね、自分で音楽ファイルを保存しておいて、好きな時にダウンロードできるんだよー」と説明すると、「"音楽をダウンロード"するのって、いけないことじゃないの?」という疑問が帰ってくるあの感じかな(笑)。Winny事件などを経て有名になった"ダウンロード"って言葉が、もはやそれ自体が悪い言葉のように勘違いしてされているみたいなね。

と、普段はあまり裁判やら政治やらと音楽が関わる話は書かないのだけれど(法律などに関して無知なので危険)、さすがに驚きを通り越して呆れたので、スケッチ程度に書いてみました。たぶん数ヵ月後には、この記事を笑い飛ばせるような状況になっていることでしょう。

2007/05/25

Claude Delangle「Under the Sign of the Sun」

当代一の名手、クロード・ドゥラングル Claude Delangle パリ国立高等音楽院教授の、最新アルバムがこれ。ラン・シュイ指揮シンガポール交響楽団との共演による協奏曲集「Under the Sign of the Sun(BIS CD-1357)」。

ドゥラングル教授のアルバムは毎回の完成度の高さが魅力的で、発売されるごとに必ず買うようにしていた。ここ数年新しいアルバムの発表がなくやきもきしていたが、「ようやく」と言った感じの新リリース。しかもデニゾフ「協奏曲」以来の、オーケストラとの共演物、しかもよく知られたフレンチレパートリーを取り上げたという大作。これぞ待った甲斐があったというものだ。

・ジャック・イベール「室内小協奏曲」
・アンリ・トマジ「協奏曲」
・モーリス・ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
・ポール・モーリス「プロヴァンスの風景」
・フローラン・シュミット「伝説」
・ダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」

イベールの録音は、重要なものだと個人的に考えている。歴代のパリ音楽院教授によるイベールの演奏(ミュール~デファイエ~ドゥラングル)は、その時代周辺のクラシックサクソフォン界の実情がただ一点に集約されている、サンプルのようなものだ。ある意味では、歴代のパリ音楽院の教授に対する試金石とも言えるだろう…。彼らのイベールを聴くことで、その時代の音色のトレンド・解釈の違い・技術の高さなどを一瞬のうちに感じ取ることができるのだ。

ドゥラングル教授の演奏によるイベールは、難パッセージにおいても安定したソノリテ、控えめなヴィブラート、雑念が取り払われたかのような曇りのない音色、ほぼ完璧な完全なフラジオの連結、などなど、特徴を挙げていったらきりがないが、確かに現在のサクソフォン界を代表するような演奏であることに間違いはない。ミュールとデファイエのものに並ぶ、"時代の流れにおける"イベール録音の決定版のひとつとして、確かに克明に記録されるべきものとなったと思う。

トマジの「協奏曲」は、個人的に大好きな曲だ。これまでオーケストラ伴奏バージョンの決定版だった、タソット氏の録音をはるかに上回る出来。もしかしたら須川さんの演奏すらも超えているんじゃないだろうか…。確かにドゥラングル教授ほどのプレイヤーにとっては特別難しい曲、というわけでもないのだろうが、ここまでサラサラ吹かれてしまうと、このサクソフォニストの限界なんて存在しないんじゃないかとも思ってしまう。無音をも効果的に聴かせるカデンツァ、そして最終部の煽りに向けて突き進む様は、圧巻の一言。所々に聴かれるオーケストラの爆演っぷりも楽しい(高音が鳴りたてる場所になると、ちょっとアヤシイが…)。

「プロヴァンスの風景」に、オーケストラ伴奏版が存在することを知らない方って、意外と多いんじゃないだろうか。なんとモーリス自身がオーケストレーションを施したバージョンなのですよ、これって。鋭角的なリズム処理が可能なピアノに比べ、オーケストラのバージョンは推進力などの点ではかなり劣るものの、色彩感という点でかなりの魅力を湛えており、これはこれで好きだな。第3楽章のピアノ左手のズッタッタッタッ、って、プロヴァンス太鼓なのですよ。第5楽章のポリリズムで進行する部分も、ピアノバージョンより強調されたズレが魅力的に響いている。

シュミットの「伝説」オーケストラバージョンって、初めて聴いたかも。ミヨーは、ヴァンドレンから出ているアルバムの演奏が頭の中に蘇って、思いがけずニヤニヤしてしまった。隅から隅まで理性に基づいて抑制された「スカラムーシュ」は、ここでも健在。初めて聴くと、ちょっと驚く方もいるかもしれない。

総じて(相変わらず)とても完成度の高いアルバムであるという印象を受けた。さすが、世界最高のサクソフォニストという肩書きは、伊達ではない。今度は、コンピューター系のサウンドとのレコーディングでもリリースしてくれないかなあ。

2007/05/24

本物のピアソラを聴く

クラシックサックスが好きで、ピアソラも好き、という人って、結構多いんじゃなかろうか。それはもちろん、全然別のジャンルとして聴き始めたという人もいるだろうけれど、クラシックサックスの奏者がピアソラへのオマージュとして製作したアルバム…例えば須川さんの「Cafe 1930(EMI)」やアウレリア・サクソフォン四重奏団 Aurelia Saxophone Quartetの「Tango Nuevo(Etcetera)」「Two to Tango(Challenge Classics)」によってピアソラ音楽の魅力を知り、はまっていった方が多いのではないかと、推察する。そういう私も、クラシックサックス関連のアルバムからピアソラを知ったクチである。

私のピアソラ入門は、トルヴェール・クヮルテットのアルバム「トルヴェールの四季」だった。(ヴィヴァルディ原曲の四季をそのままサックス4本+ピアノに置き換えたとばかり思っていた)タイトル曲「トルヴェールの"四季"」があまりにもな編曲でガッカリし、一方でタイトルすら聞いた事のなかった「ブエノスアイレスの四季」の、あまりのかっこよさに惚れた…のが、ピアソラとの出会い。続いて、ヨー=ヨー・マの「Soul of the Tango」だったっけ。今考えてみるとなんであんなものに深く心酔していたのか、今となっては良く分からないが、これにもどっぷりとはまっていた。

ピアソラ自身の演奏に触れたのは、だいぶ後だ。当初はクラシック屋の演奏する洗練されたピアソラの音楽に慣れていたため、面食らったの何の。がしゃーん、どかーん、テンポは揺れるは、メロディはごちゃごちゃ、不協和音の連続。名盤とされている「Tango Zero Hour」も、一体これのどこが良いのか、全く分からなかったものだ。一時は、「ピアソラ自身の演奏よりも、クラシック奏者が演奏するピアソラ音楽のほうが、洗練されていて好きだ」などと大声でわめいていた時期もあったっけ。

ピアソラ自身の演奏する自作タンゴをきちんと聴き始めたのは、ごく最近だ。たまたま観たモントリオールのライヴDVDのあまりの壮絶さとカッコよさに、虜になってしまったのだ。そこには、ジャズ・ロック・クラシック・現代音楽の全てを吸収した、ピアソラ自身の音楽があった。音楽を聴きながら、言葉を失うことってたまにあるけれど、まさにそんな感じ。「AA印の悲しみ」の長大なバンドネオン・ソロ、「チン=チン」のピアノ・カデンツァ、「天使シリーズ」のヴァイオリンと、挙げていけばきりがない。「AA印の悲しみ」なんか、何度聴いても、最終部で胸が締め付けられるような強い感動を覚える。

クラシック奏者が取り上げるタンゴもどきに初めて触れてから数年、いつの間にピアソラの自演を「好きだ」と思えるようになったのだろうか。音楽全般に対する聴き方が変わってきたのか。

何が言いたいかというと、「Soul of the Tango」聴いたくらいでピアソラの音楽をわかったつもりになっちゃいけないぞ、ということ。ピアソラの音楽は、彼自身による演奏"のみ"によってしか、ピアソラ音楽たりえないのだと、最近気付かされ、その思いを強くした。自演を離れた瞬間に、もはやピアソラではなくふつうのタンゴになってしまうのだなあ。

2007/05/21

嗚呼!愛すべき変態ジャケットたち・クラシックサックス編

盟友(?)rokuen氏が管理するブログ「中村区民吹奏楽団」の、過去記事「嗚呼!愛すべき変態ジャケットたち」を参考に、クラシック・サックス編を製作!少し探すだけで、rokuen氏の記事に負けず劣らずヘンテコリンなジャケットがわんさか出てきた。

さて、紹介を始める前に、rokuen氏の言葉を引用しておこう。

世の中にはジャケ買いという言葉があります。優れた、あるいは奇抜なジャケットには不思議と手にとってみたくなる(そしてあわよくば買ってみたくなる)魔力のようなものがあります…

私はジャケ買いはあまりしないのだが、文字が並んだジャケットよりも、変態ジャケットのほうが店頭で目に付くことは確か。意外にもCDの売り上げを左右する大きな要因のひとつ、なのかもしれない。

※各画像は、クリックで拡大できます。
※画像の使用許可はいつものごとく取っていないため、無断転載はご遠慮ください。問題があったら消します。

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稀代のスーパー・サクソフォニスト、ダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏。同時代の作曲家の作品を、積極的に紹介していく姿勢には、頭が下がるばかりです。そのケンジー氏が、ADDAレーベルに吹き込んだCDがこれ。

・Daniel Kientzy「Musiques contemporains pour saxophones(ADDA)」

サックスッテ、ニホン同時ニ吹ケルモノナノデスカ?…それだけでなく、CDを再生した途端に本当に2本のサックスの音が聴こえてくるというサプライズ付。有言実行の精神、カッコイイ!

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ケンタッキー大学ジャズ・サクソフォン科教授、マイルス・オスランド Miles Osland氏は、ソリストとしてだけでなく教育者や(クラシックの)作曲家としても、その名を馳せています。主宰するケンタッキー・メガ=サックスと共に、自作を録音したアルバムから、2題。

・Miles Osland「Comission Impossible(Sea Breeze)」

アメリカンだなあ(爆)。明らかにミッシ○ン・インポッシブ○のパクリ(オマージュ)です。右下に書かれたThe CD is self deleted in...のセリフもウケます。

・Miles Osland「Saxercize(Sea Breeze)」

ぜひクリックして細部までじっくりとご覧ください。なんとサックスから腕が生えて、筋トレしている様子を描いているというもの。エクササイズ Exercizeと、アルバムタイトルのサクササイズ Saxercizeを引っ掛けたのですね…ってなんじゃそりゃあ!

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日本を代表するサクソフォーン四重奏団の一つである、おなじみトルヴェール・クヮルテット。既存のクラシックサックスのレパートリーを打ち破るような斬新なレパートリー、そして高い技術と遊び心は、世代を問わず愛されています。

・トルヴェール・クヮルテット「トルヴェールの四季(東芝EMI)」

四季のイメージですね。この4人は、メンバーが化けているのでしょうか。ここには載せませんが、ジャケットの裏表紙も同一コンセプトながらさらにユニークです。

・トルヴェール・クヮルテット「トルヴェールの惑星(イマジン)」

メンバーの皆さんが神様のコスプレ?をしています。新井さんはやはり貫禄がありますね。ちなみにこちらのジャケットは、見開きのシンメトリ・イメージが爆笑モノ。CD自体は入手しやすいので、ぜひ手にとってご覧ください。

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オランダのサクソフォン奏者、アルノ・ボーンカンプ Arno Bornkamp氏は、さまざまなコンセプトのアルバムを積極的に発表しています。彼のソロアルバムから2つほど。

・Arno Bornkamp「Hot Sonate(Vanguard Classics)」

ファイヤー!!表情といいカメラのアングルといい、ボーンカンプ氏のソウルがひしひしと伝わってきますね。クラシックのアルバムですが、演奏もアツイです。

・「Heartbreakers(Emergo Classics)」

ボーンカンプ氏のアルバム、というよりも、作曲家ヤコブ=テル・フェルドハウス Jacob ter Veldhuis氏の作品集という位置付け。なんて妖艶なジャケットなんでしょう!しかし、このジャケット、確かに聴こえてくる音楽の内容をそのまま表現しているようで、興味深いです。O, O, O, O, Over populated!

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「おまけ」

最初に紹介したケンジー氏のミニアルバム「Une Couleur...(Nova Musica)」に収録された、デ=パブロ氏の作による協奏曲は、5種のサクソフォンを駆使した22分に及ぶ大作。そのジャケットがこちら。


ふむふむ、スポットライトに照らされた左側がデ=パブロ氏で、右側がケンジー氏ですね。暗闇の中から浮かび上がる、ちょっと不思議な感じのジャケット。

で、ちょっと試しに下半分を隠してみると…。


………。


……。


…。



…なんだか、ラブラブな感じに見えません?ハートマークの上半分みたいな(笑)。

と、最後はくだらないオチでした(中傷意図はありません)。失礼しました。

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ちなみに、rokuen氏のブログ「中村区民吹奏楽団」は、吹奏楽の未来を俯瞰する実に興味深いブログ。特に吹奏楽に関わっている方、ぜひご一読のほどを。

リハ終了&宣伝

大学のときに所属していた吹奏楽団の、次回定期演奏会のリハーサルに参加してきた。なぜって、第2部のウグイス嬢(司会のこと、嬢ではないか)をやらせていただくことになったから。ちなみに、すでに引退しているため演奏では参加していない。

ちなみに第2部のプログラムの、吹奏楽の超B級レパートリー(もちろん褒め言葉)の代表格みたいな作品群は、吹奏楽界に一石を投じる作品群だと、個人的には考えている。プログラムノートの原稿を書いたことは、前の記事で書いた

リハを袖から眺めていた感じだと、第1部、第2部ともになかなか演奏が良い感じ。皆様、ぜひ足をお運びください。ノリノリのプログラムの連続に、昨日のゲネプロでは袖がダンステリア化していたのが可笑しかった。

・筑波大学吹奏楽団第57回定期演奏会
日時・場所:
2007年6月9日(土)
開場13:00 開演13:30
つくば市ノバホール(つくばエクスプレスつくば駅下車徒歩3分)
入場料:
一般(高校生以上)当日500円 前売り400円
中学生以下 無料 ※年齢のわかるものをご持参ください
プログラム:
第1部~劇場音楽特集
A.ロイド=ウェーバー「オペラ座の怪人」
B.ウィーラン「リバーダンス」
第2部~Symphonic Winds meets Jazz
J.ニューマン「チャンク」
E.ウィッテカー「ゴースト・トレイン」
問い合わせ:
utsb_inquiry@hotmail.com

2007/05/19

デファイエが吹く「ディヴェルティメント」

その昔Crestから発売されたダニエル・デファイエ Daniel Deffayet氏のソロLPは、今となっては半ば伝説と化している。ガロワ=モンブラン「6つの音楽的練習曲」、ブートリー「ディヴェルティメント」、パスカル「ソナティネ」、リュエフ「無伴奏ソナタ」が収録されたものだ。

親交が深かったというリュエフのソロや、ガロワ=モンブランなんか、今まで出版されたLP・CDを全部まとめて鼻の先で吹き飛ばしてしまうような、究極的な素晴らしさを誇るのだが、私個人が特に取り出して聴くのはブートリーの「ディヴェルティメント」だ。

この演奏に出会うまでは、どうもこの曲が好きでなかった。フルモー氏、マーフィ氏、アンドレ・ブーン氏などの大御所が吹くこの「ディヴェルティメント」も、一回聴いただけでお蔵入りしていたものだ。たぶん、曲そのものの性格から来ていたものなのだろう(つまり、あんまり好きな曲ではない、ということ)。どんな曲か、というのも忘れてしまっていたほどだ。まあ、作曲家としてのブートリー氏も取り立てて好きというわけではないし、不思議はないですな。

しかしデファイエ氏が吹く「ディヴェルティメント」に初めて出会ったときの衝撃は、今でも鮮明に思い出すことができる。第1楽章がカデンツァを経て最高潮に達する瞬間の、あの等速ヴィブラートを伴うファ#、第2楽章の耽美なフレーズ、そしてつむじ風のように鮮やかな第3楽章と、聴き終えて呆然と立ち尽くしたっけ。「こんな曲だったっけ!」という飛び上がるほどの驚き。

奏者が変わると曲の印象もこうまで変わるものなのか、という、いままでで一番の経験だろうか。それ以来繰り返し聴いたが、何度聴いても鮮烈な感動を得ることができる。もしかしたら、曲そのものというより、デファイエ氏の天性のようなものを演奏から感じ取って楽しんでいるのかもしれないなあ、というのが、最近「ディヴェルティメント」を聴きながら考えること。

2007/05/16

RNCMのアウェイデー

ついにと言うか何と言うか、王立北部音楽院吹奏楽団 Royal Northern Collage of Music Wind Orchestraの演奏によるアダム・ゴーブ Adam Gorb「アウェイデー Awayday」の録音が出版されたらしい。もう発売されてから3ヶ月くらい経ってるようだ。詳細はこちらから。正式なアルバムタイトルは「Homages for Wind(CHANDOS CHAN 10409)」だそうで。

今までは、手に入れやすいものとしては、東京佼成ウィンド、ノース・テキサス・ウィンド、アメリカ海兵隊バンドの録音くらいしかなかったのだから、この度あの世界最強の吹奏楽団のひとつであるRNCMウィンドが録音をリリースしたのは嬉しい限り。ついでに言えば、ようやく「アウェイデー」の委嘱元からだということで、満を持しての録音とも言える。指揮者はティモシー・レイニッシュ氏ではなく、クラーク・ランデル氏だとのことだが。

今までトドメを指していたノース・テキサス・ウィンドの演奏にどれだけ肉薄し、また追い越しているのかどうか、注目だろう。買おうかな…いや、たぶん買わない。誰か買ったら、聴かせてください。

…って、今日の記事は、普段ブログを読んでくださっているサックス関係の方には、何のことやらさっぱりだとは思うが(4年前ほど前までは、吹奏楽のマニアだったんです、私)。

その昔、依頼されて執筆した曲目解説も掲載しておく。左の画像をクリックして拡大できる。

2007/05/15

ロンデックスの凄い復刻盤が出る!

ソリストとして、オーケストラプレイヤーとして、また元ボルドー音楽院サクソフォン科教授としても有名な、ジャン=マリー・ロンデックス Jean-Marie Londeix氏。ちょっとクラシックサックスに興味がある方ならば、一度は名前を聞いたことがあるのではないだろうか。

この度、そのロンデックス氏の4枚組秘蔵音源集、などというものがMDGから発売されるらしいのだ!正式タイトルは「Jean-Marie Londeix - Portrait(MDG 642 1416-2)」で、曲目リストは、以下のとおり(HMVからのコピペ)。

・Murgier: Concerto
・Constant: Concertante
・Maurice: Tabelaux de Provence
・Amelier: Concertino op.125
・Bernier: Hommage a Sax
・Dubois: Concerto
・Dubois: Le Lievre et la tortue
・Dubois: Les Ecureuils
・Bauzin: Poeme op.20
・Bauzin: Sonate op.15
・Koechlin: Etudes op.188
・Desencios: Prelude, Cadence & Final
・Hindemith: Sonate
・Denisov: Sonate
・Godkovsky: Brillance
・Robert-Diessel: Cadenza
・Eychenne: Cantilene & Danse
・Alla: Polychrome
・Markovitch: Complainte & Danse
・Lacour: Divertissement
・Delvincourt: 3 Croquembouches
・Milhaud: Scaramouche
・Bernier: Capriccio
・Creston: Toccata aus der Suite op.6
・Rueff: Chanson & Passepied
・Auclert: Comme un vieux Noel
・Schmitt: Songe d Coppelius op.30-11
・Ibert: L'age d'or
・Bonneau: Caprice en forme de valse
・Debussy: Syrinx

思わず「何だってー!」と声を上げてしまった。す、すごい。一体なんだこの貴重な音源の数々は…。私もCrestから発売されたデザンクロ、ロベール、ミヨー、ダルヴァンクール辺りの音源は持っているが、ここまで派手な形で復刻されるとは、思ってもみなかった。そんなの録音してたんですかあ、というようなキラー曲から、フランスアカデミズムの潮流を汲む正統派まで(いくつかはSaxAmEで聴ける録音と同一のもののようだ)。EMIから復刻されていたCDと、ほとんど曲目がバッティングしないというのも、好感度高し。

ロンデックス氏75歳を記念したCDだそうで、MDGレーベルの大盤振る舞いに感謝。せっかくなのだから、イベールの「室内小協奏曲」やシュミット「伝説」も一緒に復刻して欲しかったが、さすがにここまで来れば、贅沢すぎる願いというものだ。クラシカル・サクソフォンの分野で、こういったスペシャルな復刻が行われることは、ごく稀なのだから、いろいろ言っているとバチが当たりますね。

録音自体が存在しない秘曲を聴けるのもありがたいし、演奏だって、少なくとも件のCrest盤を聴いた限りではロベール、デザンクロはじめ必聴モノばかりだ(と思う)。サクソフォンを学ぶ方は、ぜひ手元に置いておいて損はないディスクではないだろうか。こんな感じで、デファイエさんの録音なんかも復刻されれば良いのに。

「よーし、予約しよう」と、ちょっと調べてみたところ、HMVやTower Recordsでは4000円台、amazonで7000円台のようだ…って、その差は一体なんだ。

クローバー・デビューリサイタル

ぼーっとしていると、更新できずに3日も4日も過ぎてしまうことって、良くある(え、ないって?)。今さらではあるが、先日聴いたクローバー・サクソフォン・クヮルテット Clover Saxophone Quartetのデビューリサイタルの感想を。

5/11 19:00~ 開場時間にぴったり合わせて行くと、ロビー外まで続く長い列。今回の演奏会は、なんと満席だったようだ。音大生っぽい人、プロとしてかなり高名なサックス吹きの方々がたくさん。雲井雅人サックス四重奏団のときと、ほぼ同じ位置になんとか席を構え、開演を待った。

一曲目はボザ「アンダンテとスケルツォ」。以前からの感想と同じになってしまうのだが、やはり微弱音を完璧にコントロールできるのは、この若い四重奏団の最大の武器だ。第1楽章アンダンテの、民謡風のテーマが盛り上がって、最後、静かに和音の伸ばしで閉じてゆくときの微妙な表情なんかも、見事。フランセは、楽しかったな。実演で聴いたのは初めてだが、fffとpppとの差をつけ、皮肉さをしっかり引き出した解釈。実演だと余計に、奏者の動きなどとあいまって微笑を誘う曲だ。デザンクロは、フェスティバルで聴いたときよりも、バランスなどの点において、さらに練られているような印象を受けた。今回の演奏会に向けて、相当量の合わせをしたのだろうと推察する。

後半は、石毛里佳さんという方の新作「アレグレットとプレスト」から始まった。アマチュアには演奏できないような高難易度の作品で、ジャズ風の和音を持つ断片的なフレーズが現れては消え、徐々に収束していくような、面白い曲だった。演奏後にステージに呼ばれていたけれど、とてもあんな曲を書くとは思えない、フツーの女性といった趣。最後に演奏されたグラズノフは、クローバーのいわば、「名刺代わり」とも言えるレパートリーなんだそうだ。どこまでもなめらかで明るい響きで、軽やかなグラズノフ。ハバネラの演奏に近い、とも言えるかもしれない。現代のサックスの、トレンドなのだろう。

アンコールは、モリコーネ/石毛編「ニュー・シネマ・パラダイス」に、林田さんの自作「ストレンジ・フォー・カラーズ Strange Four Colours」。林田さんの曲がまた、疾走する感じのカッコイイ曲で、サックスが上手い上に、こんな余技も持ってらっしゃるとは…と、驚き。

2007/05/12

珍しく、吹奏楽への編曲

訳あって、吹奏楽編成のためにとある曲の編曲をやっている。編曲というか、既に音は全部あるので、トランスクリプションやらオーケストレーションやらと表現するほうが正しいかも。楽譜作成ソフトでこれだけのパート数を同時に扱うのは初めてで、けっこう苦戦中。

あんまり今まできちんとした楽譜を書いたことはないんだよな。聴音して四重奏のために2、3曲小品を作ったことはあるけど、そもそも絶対音感がないので、物凄く筆が遅いのだ。今回は聴音はほとんどないが、かわりにパートが多すぎてきつい。

さて、もう少し頑張ろう。

(追記)
現在3:00。まだアーティキュレーションを打ち込んでいないが、いちおう完了。疲れたー。

四重奏巡礼、終了

クローバー・サクソフォン・クヮルテットを聴いてきた。東京文化会館の小ホールは、なんと満員。まさに新世代の四重奏団といった感じの見通しの良いサウンドに、各人のソリスト級の技量。グラズノフの見事な消化吸収っぷりにも驚いたが、その他フランセが微笑を誘う確信犯的な音楽作りで、とても面白かった。

石毛さんの新作や、アンコールで演奏された林田さんの自作「Strange Four Colours(?うろおぼえ)」も、ジャズの影響を受けたハーモニーとリズムが、楽しかった。明日詳しく書く予定。

さて、これにてトルヴェール→雲井Q→クローバーという四重奏巡礼は終了(本当はヴィーヴも行きたかったのだが)。聴きに行きたいコンサートって、なぜか一気に集中するもので、嬉しい悲鳴とはまさにこのこと。しかも今回は、ボザ、グラズノフ、デザンクロ等のプログラムが重複するなどし、短期間で生で聴き比べられたのも面白かった。

次聴きに行くサックスのコンサートは、いつかなあ。たぶん7月のジェローム・ラランさんの演奏会かな。

コンサート前に立ち寄った渋谷のタワレコで、ドゥラングル教授の新譜「Under the Sign of the Sun(BIS CD-1357)」とアポロ四重奏団の演奏によるバーバラ・トンプソンの作品集を確保。こちらも、しっかり聴いたらまたレビューします。特にドゥラングル教授の新譜、今そのディスクを聴きながらこの記事を書いているけれど、これはかなり良いですぞ!

あと、新宿のドルチェ楽器のサックスブースで、先日の雲井雅人サックス四重奏団さんの演奏会の様子が放映されており、思いがけずあのマスランカの作品の第5楽章を今一度、観聴くことができた。コンサートの感動がみるみる蘇ってきて、感激!さすがに生で体感したときよりも幾分常識的に聴こえて(それでも鬼神のごとき壮絶さが伝わってきたが)、ようやくテーマのメロディを覚えられたのだった(笑)。

2007/05/09

雲井雅人サックス四重奏団第6回定期演奏会

5/7 19:00~ 上野の東京文化会館で開かれた演奏会。なんだかんだ言って、東京文化会館小ホールはいちばん足を運んでいるホールかも。4年前の栃尾さんのリサイタル、昨年のハバネラ四重奏団、今年のモルゴーアと、累計4回目。他と一線を画したユニークな形状のホールは、室内楽を聴くのに最高の環境の一つだと思っている。

開場時間ぴったりに到着したのだが、驚くほどの混みっぷり。誘導係員がてんやわんやで、何度も別の列に並び直させられるハメに…。かなり出遅れて入るも、何とか席を確保して開演を待った。客席を見渡してみると、サックス奏者の方、お弟子さんらしき方などがたくさん。週末に同じホールで定期演奏会を開くクローバー・サクソフォン四重奏団のメンバーが全員いたのが、ちょっと面白かった。

フロリオ。気の利いたオードブルのような、楽しげな演奏。そう、雲Qさんの演奏は、軽い曲でもふっと引き込まれてしまうのだ。それは、音色の変化であったり、緻密に構築された曲の流れであったり(いったどれだけ合奏しているんだろうか?)…いろいろな所に要因があるのだと思う。前回の定期演奏会はそのせいでメインまで(自分の体力が)持ちこたえられなかったので、この曲だけは気楽に聴くこととする。フロリオは19世紀の所産だが、オリジナルの響きに流されず、完全に再構築された音が、この現代のホールに響き渡った。

続くグラズノフは、とても堅実な印象を受けた。相変わらずの美音のなかにゆらめく、音色の変化。なんかこう、もう少しロシア的な様式を踏まえた(ルバートがしつこく効いた)感じを聴きたかったとも思ったけれど、ここまで説得力があると、さすがに贅沢すぎる願いというものだ。最終部は、快速で飛ばしながらも決して軽くならず、重厚な音楽のままフィニッシュ。

後半は、バッハとマスランカ。バッハは、本当に楽しい編曲だった!メロディの形はしっかり残っているけれど、そこから聴こえてくるのは、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような多彩な響き。編曲者の北方寛丈さんは、2005年に愛知県立芸術大学を卒業されたばかりの若手だが、そんな若さから来るチャレンジ精神が良い方向に働いたのだろう。同じ無伴奏パルティータとは言え、2年前に聴いた伊藤康英先生の「シャコンヌ」の編曲とは大違いだ。演奏も最高。満点の星のようにキラキラした音が、ホール中に響き渡るのだ。このサックス四重奏団に掛かると、現代楽器でバッハを演奏したところで、微塵の違和感すら感じられない。

マスランカ「レシテーション・ブック Recitation Book」。作品・演奏とも、想像をはるかに超えた強靭さと、美しさを兼ね備えたものだった…ホールの中に凄いことが起こったのは覚えているのだけれど、あれはいったい何だったんだろうか。究極の慰めの表情から、天地がひっくり返って世界が終わってしまうのではないかというような狂気の渦、そして昇華…。本当の音楽は、私たちを日常から切り離し、はるか彼方へ連れ去ってしまうのだな、と実感した瞬間。…だめだ、やっぱり上手く言葉にできない。

終演後は、身体・精神ともに虚脱状態だったのと(マスランカ起因…)、ロビーのあまりの混みっぷりに、早めに退散。「レシテーション・ブック」とアンコールの「ソールズベリー」の余韻に浸りながら、帰路についた。

2007/05/08

水戸交響吹奏楽団第10回記念定期演奏会

5/6 14:00~ この日のライヴは、雨のため2つとも中止。残念。そのかわり?お知り合いのM野氏が指揮を振られるということもあって、誘いを受けて水戸市まで出かけて水戸交響吹の定演を聴いてきた。

水戸交響吹というと、夏のコンクールで何度かそのサウンドを耳にしているが、一般バンドの中でも、私が特に好きな団体だ。アマチュアとしては十分すぎるほどの、真摯な音楽作り、そして何よりその理想的な音響バランスは、まさに"交響"吹奏楽団。ウチの大学のバンドは、サウンドとしてはかけ離れていたものだから、やや憧れもしていたのだが、それも今となっては昔の話。そういえば、3年前に聴いた北爪道夫の「祈りの旅」の演奏が、えらく印象に残っているなあ。他部門ながら、まさに度肝を抜かれる美しさだったっけ(前半の、あのユーフォニアムソロ…!)。

音楽監督の萩原健氏がクラリネット人だということも、そこそこ関係しているのかしらん?人数がしっかり揃ったサウンドの核、クラリネットセクションは、水戸クラリネット合奏団への参加もあって技術レベルも相当なものだ。

さて、会場は茨城県民文化センターだったが、たどり着くまでに相当迷い、到着したと思ったら豪雨にもかかわらず驚くほどの人出、車が停められないほど!すごいなー。なんとか開演ギリギリにホールへ転がり込み、危うくも、なんとか一曲目から聴くことができた。

~水戸交響吹奏楽団第10回記念定期演奏会~
第1部
・リード - アルメニアン・ダンス パート1
・樽屋雅徳 - マゼランの未知なる大陸への挑戦
・レハール/リード編 - 喜歌劇「メリー・ウィドウ」よりヴィリアの歌
・レスピーギ/森田一浩編 - 交響詩「ローマの祭」より
第2部(五台小学校金管バンドによる演奏)
・スパーク - コンサートプレリュード
・スパーク - オリエント急行
・クラーケン - もう一匹の猫(金管8重奏)
・コンサートマーチ"ディズニー・ワールド"
・パイレーツ・オブ・カリビアン(合同演奏)
第3部
・口笛吹いて働こう
・指揮者体験コーナー
・美空ひばりメドレー

3時間に及ぶ長大なプログラムだったが、気楽に聴けたためか、疲れもせず最後まで聴きとおすことができた。五台小の金管バンドというのは、コンクールで上位入賞を繰り返す、全国的に見てもかなりハイレベルなバンドだそうだ。10周年記念ということで、地域貢献もかねて共演したのかな。

しかし、一曲目からアルメニアンダンスとは(笑)。確かに演奏会最初の景気付けには最高の曲だとは思うが、手加減なしのパワー全開。"やまうずらの歌"や"アラギァズ"なんかは、さすがの音色のコントロールとバランスだ。"いけ、いけ"での爆発も見事。次曲では、指揮はM野氏に交代し、樽屋雅徳「マゼランの未知なる大陸への挑戦」。一種交響詩のようなストーリー性あふれるスタイルの中に、驚くほどの要素がこれでもかとばかり詰め込まれた作品。リズム遊び、ハーモニーの多様さなど、昨今の吹奏楽界で人気を博している理由も分かる気がする。かなり難曲のようではあったが、M野氏のダイナミックな指揮っぷりから引き出されるメリハリの利いた音は、なかなかのもの。

メリー・ウィドウから抜粋された「ヴィリアの歌」は、本日の演奏会の白眉だった!やはり、この吹奏楽団にはこういった傾向の優しいサウンドが似つかわしい。数分間の中に、素敵なドラマがしっかりと表現された演奏。「ローマの祭り」は、今年のコンクール曲なのかな、ちょいと荒さが目立ったが、きっとこれからの練習で、どんどん変貌を遂げてゆくのでしょう。

第2部は、小学生の金管バンド。正直、どんな音が出てくるのかおっかなびっくり聴き始めたけれど、予想外の上手さに驚き。トランペットなんて、ほとんど音圧はないのだけれど(音量は人数でカバー)、なんて純粋無垢な音色だろう。奏法が本当にシンプルで、変な癖がついていないためなのか。スパークの「コンサート・プレリュード」「オリエント急行」のブラスバンド版は、大人が吹いたって難曲だけれど、「見事」の一言。ソロは、なんとヴィブラートつき。こういった子たちが楽器を続けると仮定すると、果たして私たちの年齢になる頃にはどれだけ上手になっているというのか…。

第3部の観客参加型のステージも面白かった。アンコールは、ショスタコーヴィチ「祝典序曲」、「千の風になって」、リード「第一組曲」より"ギャロップ"。ショスタコーヴィチをアンコールに持ってきてしまうのか、いやはや(しかもかなりの佳演)。あと、小学生に「千の風になって」を歌わせるのはどうかと思うぞ(爆)。

唖然

雲井雅人サックス四重奏団の第6回定期演奏会を聴いてきた。

バッハ×マスランカは、予想をはるかに超えたものだった…。特にマスランカの新作!想像する限り強靭なパワーを持ち、そしてひたすらに美しい作品(あまりに感動して、思わずマスランカさんにメール送っちゃったよ)。演奏も、その素晴らしい新作をひたすら読み込んでいくことに徹した、真摯なものだった。

あー、最後は、鳥肌立ちっぱなしでした。なかなか言葉に落とし込めないので、また明日以降書きます。

研究室の用事が忙しいし、水戸交響吹奏楽団のコンサート・レビューも書きたいしで…なかなかたくさんのキューが溜まってしまって、手がつけられない、というのもある。

2007/05/07

熱狂の日、二題+α

5/5 夕刻~ こちらのコンサートには行く予定はなかったのだが、勢いで聴いてきてしまった。有楽町の東京国際フォーラム周辺で行われている、熱狂の日(ラ・フォル・ジュルネ)音楽祭。2年前に彗星のごとく日本に降り立った、言わずと知れた大音楽祭だ。ゴールデン・ウィークの期間中、朝から終電の時間まで、5つのホールでクラシックのコンサートが同時進行。各コンサートは、一回45分から60分で終了し、入場料も1500円~2000円と破格。編成もソロ、室内楽からフル・オーケストラまで様々。今年は「民族のハーモニー」というテーマのもと、東欧、欧州の民族性に影響を受けた作曲家の作品が多く並んだ。

JRを降りてフォーラム方面に向かうと、すぐに中庭?の賑わいが見えてきた。屋台が並んだスペースに、くつろげる椅子とテーブルが並び、中央にはこじんまりとした演奏スペース。少しはなれたところには巨大なスクリーンが置かれている。食事をとりながら、肩肘張らず思い思いに演奏に聴き入る人たち…この光景を見るだけで、ラ・フォル・ジュルネが目指す方向を感じ取ることができる。

早速タイムテーブルを参照し、チケットがまだ買えるところを調べ、19:15からのウラル・フィルのロシアン・プログラム公演と、21:30からのバルビオ響のラヴェル・プログラム公演を確保。ギリギリの購入だったため、ドストエフスキーホールの、2階席ほぼ最後列になってしまった…しかし、2つ併せて3500円。激安。ウラル・フィルの演奏が、開演間近だったので、急いでホールA"ドストエフスキー"に移動する。2階席は、いくつものエスカレーターを乗り継いだ先。たどり着くだけで一苦労してしまった。

ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団
・ラフマニノフ - パガニーニの主題による幻想曲
・ムソルグスキー - 禿山の一夜
・ボロディン - 中央アジアの草原にて

とりあえず、ホールでかすぎ。5000席ですかい。ステージがずいぶんと遠かったのだが、2階席にふわっと浮き上がってくる音は、とても印象的で、ラフマニノフから一気に惹き込まれた。ピアノが実に見事な演奏で、超絶技巧が連続する楽譜を、転がるように弾きこなしていた。指揮の方も、弦の中低音域の、ガリガリした音色はさすがロシアのオーケストラと言ったところか。「禿山」こそ、このオーケストラの本領発揮で、全身フル運動のような激しい指揮から繰り出される大音響は、まさに巨大ホールを覆いつくす「嵐」。そして同時に、5000人の聴衆の、すさまじい集中力。後方の座席までも、水を打ったように静まり返り、ステージを一心に見つめる観客…。

ボロディンでしっとりと閉めた後は、オーケストラに心からの暖かい拍手が送られた。何回ものカーテンコール。なんだか、現実の世界ではないみたいだ。

夢見ごこちのまま中庭に出ると、外はすっかり暗く、しかし賑わいは先ほどのままだ。この期に及んで家路へと急ぐ姿はほとんど見受けられない。スクリーンに映し出された演奏を聴き入る人、食事を楽しむ人…。

半券を使って展示ホールへと移動すると、どこかのオーケストラがストラヴィンスキー「春の祭典」を演奏中。かなり上手い演奏で、第2部をまるまる聴くことができた。四方からステージを取り囲み、ここでもやはり演奏をじっと聴き入る聴衆…。指揮は高関健氏のようだったが、オーケストラはどこだろう。女の子が多いことだし、どこかの音大のオーケストラだと思っていたのだが、後から調べてみたら、桐朋音楽大学のオーケストラだったようだ。

「春の祭典」を聴き終わった後は、再び中庭に出て軽めの夕食。デミグラスソースオムライスを食す。なかなか美味しい。そうこうしているうちに、いつの間にやら開場時間に。5000人を収容せねばならないため、開場時間は開演の45分前なのだ。再び、ホールAへ移動。

ファンフォ・メナ指揮バルビオ交響楽団
・ラヴェル - 亡き王女のためのパヴァーヌ
・ラヴェル - 「ダフニスとクロエ」第2組曲
・ラヴェル - ボレロ

どんな音のオーケストラかなー、と思っていたのだが、意外なほどに正統的な響き。技術的にもとても上手いオーケストラだ。「亡き王女~」は、一音一音を慈しむような丁寧な演奏、美しい音色で、続くプログラムに否応なしに期待が高まる。「ダフニスとクロエ」でのメナ氏の指揮っぷりは、先ほどの曲がウソのような、ダイナミックさ。実に快速な「全員の踊り」の終結部へ向けての煽りは、圧巻の一言。ホールいっぱいにキラキラした音色が満ち溢れ、そして伸縮・爆発・霧散していく様子が眼前に無数の光の粒となって現れているかのようだ。「ボレロ」。少し遅めのテンポで始まったが、そこはさすがスペインのオーケストラ、自分たちが作り出すリズムに、自分たち自身がノッてしまうような、不思議な感覚が伝わってきて面白かった。有名ソリストだらけのお高くまとまった「ボレロ」も良いけれど、こんな楽しい「ボレロ」、初めてだ!終演後は、実に5分以上に及ぶ、何回ものカーテンコール。客席が明るくなって、ステージから奏者が退場するときに、ふと起こる拍手に、暖かさを感じた。

余韻に浸りながら、有楽町方面へ。こんなに素敵な音楽祭ならば、もっと聴きたかったなあ。来年のラ・フォル・ジュルネ「シューベルトと仲間たち」だそうだ。次も、ぜひ。

6年ぶりのトルヴェール

5/5 13:30~ カザルスホールでの、トルヴェール・クヮルテットのコンサート。開場時間の10分前に到着すると、すでにホール入り口から長ーく伸びた列が目に入った。カザルスホールはそれほどキャパが大きくないこともあり、この日のコンサートのチケットは、なんと完売だったそうだ。ホール内も混みまくっており、あんまり良い席を確保できず。

そういえば、高校2年生の秋に初めて聴いたサクソフォン四重奏のコンサートもトルヴェールだった。生で聴くのはそのとき以来ということになる。プログラムは、以下のとおり。

・30人によるサクソフォーン・オーケストラ
伊藤康英 - エスパーニャ
グリーグ - 過ぎ去った春
・マイ・フェイバリット・シングス(真島俊夫編)
・フラッケンポール - ラグタイム組曲
・マンハッタン・トランスファー - A Nightingale Sang In Berkeley Square(彦坂眞一郎編)
・ウッズ - 3つの即興曲
・長生淳 - トルヴェールの彗星
・ボザ - アンダンテとスケルツォ
・デザンクロ - 四重奏曲
アンコール:G線上のアリア、ドゥー・ダー組曲

コンサートは、トルヴェールのメンバーに中高生を交えた30人のサクソフォンオーケストラの演奏で始まった。須川さんが指揮に回り、ソプラノのトップには芸大の細川紘希さんが。エスパーニャは、サクソフォーン・フェスティバルで聴いたこともあったっけなぁ。途中に「スペインのフォリア」が顔を出すのが面白い。一日前に集まって一気に練習した、とのことだったが、わりと安心して聴けた。

前座の後は、いよいよ4人による演奏。「マイ・フェイバリット・シングス」や「ラグタイム組曲」は、私も吹いたことがあるけれど、音色・技術・遊びゴコロはかなうはずもなし。まるで、その場でリアルタイムに取り決めが行われているように、即興的にみるみる音楽が立ち上がってくる様だ。普通に演奏したらつまらないだけの「ラグタイム組曲」も、随所に仕掛けられた"遊び"がとても楽しい。実はほとんど合わせをしていないんじゃないかとも思えるほどの、その場で生まれる音楽の勢いを感じることができる。後に演奏されたウッズよりも、こちらのほうがずっとジャズのように聴こえのは、私だけではないだろう。

個人的に大好きな曲、ウッズ「3つの即興曲」を聴けたのもうれしかった。デビューアルバム「ザ・トルヴェール・クヮルテット(Apollon)」へのレコーディング以来、ほとんど手をつけなかったというが、その15年のブランクを感じさせない見事な演奏で、CDでも聴けたあの興奮が、目の前に蘇った。各所に織り込まれる、メンバーのソロもかっこいい。官能的なバラードから、第3楽章の嵐のような超絶ユニゾンまで、押さえるところをきっちり押さえ、プラスアルファを繰り出していくあたりは、トルヴェールの面目躍如といったところ。

後半は一転して、クラシック系のプログラム。後半は「彗星」からスタート。やっぱり、これでもかとばかりに要素が詰め込まれた長生節を、120%の再現できるのは彼らしかいないですな。アンコンなどで聴くことができる"彗星"とは一味も二味も違った演奏だ。

ボザ、デザンクロは、軽めな演奏を想像していたのだが、ちょっと違った。特にデザンクロは、前半のポップスの流れを汲むようなノリノリ(笑)の演奏で、曲がもつモダン・ジャズの表情を(特にリズムの側面から)引き出した解釈。聴きながら、盗み取りたい瞬間がいくつもあった。しかし、我々アマチュアが、息を切らしながら頑張って吹くこれらの曲を、いとも簡単にらくらく~と吹いてしまうのですな。

アンコールに、「G線上のアリア」と「ドゥー・ダー組曲」。「ドゥー・ダー」の最終部は、まるで即興演奏大会のような激しさで、盛況のうちに幕を閉じた。

そういえば、一部の中学生のマナーの悪さ(ポスターで肩を叩くわ、ヒソヒソ声でおしゃべりするわ、袋をがさごそやるわ…いずれも演奏中)が、とっても気になったのだが…気にするほうがおかしいのかなあ。好きで来てるなら、もっと集中しても良いと思うのだが、こんなもんなのだろうか。うむむ。

さて、トルヴェールは、今年の10月6、7、8日にトッパンホールで20周年記念コンサートを行うそうだ。果たしてどんなプログラムで20年間を俯瞰するのか、こちらも注目したい。せっかくだから、出かけてみようかな。…って、学園祭の期間中じゃないか!

原博巳氏クリニック&ミニコンサート

5/5 10:30~は下倉ドリームフェアの一環、原博巳さんのサクソフォンクリニック&コンサート。会場は、明治大学リバティホール。少し出遅れて到着すると、会場は8割方の席が埋まるかなりの盛況。中学生と思われる方が多かったかな。熱心にメモをとっている生徒が多かった。クリニック一人目の途中から聴けた。

受講生は2人とも高校生だったが、音大を目指しているのかな、両者とも健闘していた。受講曲は、ラクールの45番、ミュール編の小品、ボザの「イタリア幻想曲」など。原さんのアドバイスは、プレイヤーとしての立場に立った、シンプルかつ的確なもの。奏法や解釈に言及しながら見本演奏を交えた進行に、受講生の方の演奏が徐々に変わっていく様子が面白いのだ。

クリニックの後は、原さんの演奏によるミニ・コンサート。バッハの「無伴奏パルティータ第2番」よりアルマンド、サラバンド、ジーグ。それに、ルチアーノ・ベリオの「セクエンツァVIIb」。どちらも無伴奏の作品だったが、とてもすばらしい演奏だった。

バッハは、ジャン=ピエール・パラグリオリ Jean Pierre Baraglioli氏からのアドバイスによる選曲だそうだ。まるで太身のクラリネットのような素朴かつ大音量の音色は、この作品を演奏するときのスタイルに、比較的マッチしている気もする。CDで聴ける原さんの演奏とは、ひとつひとつの音の処理などに違いが見受けられたが、意識して変えていたものだったのだろうか。せっかくの第2番ならば、本当はシャコンヌが聴きたかったが、それは贅沢な望みというものだろう。

ベリオは、なんと暗譜(!)での演奏。数年前にフェスティバルで聴いた、「ミステリアス・モーニングIII」の演奏を思い起こさせる、凄まじい集中力。比較的響きの少ないホールではあったが、そんなことを感じさせる暇のない、内容の濃い演奏だった。ソプラノサクソフォンを構えた演奏姿を見ていると、飛び出す記号的な音とあいまって、まるでPCのキーボードを構えてコンピュータを操作しているような光景にも見えますな。

曲が始まる前に行われた、原さん自身による曲に関するレクチャーも、面白かった。「セクエンツァVIIb」のテーマは、"縦方向(音域)と横方向(時間軸)への拡大と縮小"なんだそうだ。縦方向の基準音となるHの音は、「セクエンツァVIIa」の献呈を受けたオーボエ奏者、ハインツ・ホリガー Heinz Holligerのイニシャルから取られたとか(原博巳さんもH.H.だそうで笑)、横方向のぽんっ、ぽん、ぽんぽんぽぽぽぽ…という拡大と縮小のリズムは、ベリオの奥さんが日系人だったことにも由来しているとか、興味深いお話がたくさん。そのほか、Heinz Holligerの文字総数13文字に由来した13小節×13段の楽譜のレイアウト等、いろいろなところに言及されていた。

とりあえず、中学生のみなさんにベリオを聴かせてしまうという原さんのセンスに脱帽。おそらく大半の方々は、「セクエンツァVIIb」を聴くのは初めてだったと思うが、いったいどんな受け止められ方をしたのだろうか。この演奏をきっかけに、何人かの中学生は現代音楽に開眼したりして…(笑)。そういえば、私の"初めての現代音楽デビュー"も「セクエンツァIXb」だったっけなあ。

原さんは、ララン氏の招きにより、今月の中旬からバッハやベリオを含むプログラムでフランスツアーを行うそうだ。うーん、日本でも聴きたい。

2007/05/06

聴きまくりの日

原博巳さんのミニ・コンサート&トルヴェール・クヮルテットのコンサート、それに、予定には入れていなかった熱狂の日(ラ・フォル・ジュルネ La Folle Journee)のフル・オーケストラコンサートを2つ聴いてきた。いやあ、どれも良かったなあ。またそれぞれについて、後日詳しく書きます。以下、メモ書き。

・東京国際フォーラム・ホールAを埋め尽くす5000人の観客の、水をも漏らさぬ演奏中の集中力に驚かされた。…それに比べて、カザルスホールでの中高生(もちろん一部の、だが)の落ち着きのなかったこと…(--;
・バルビオ交響楽団のボレロのサクソフォンソロはお二人とも日本人のようだったが、誰だろう?座席がステージから遠すぎて分からなかったのだ。ご存知の方いらっしゃいましたら、どうぞ教えてくださいませ。

2007/05/04

Pierre Jodlowski「Mixtion(混合)」

ピエール・ジョドロフスキ Pierre Jodlowskiは、フランスのトゥールーズ地方に生まれ、リヨン音楽院に学んだ作曲家。1971年生まれとの事だから、まだ30代の若手だ。1996年~1997年にかけてIRCAMに研修員として配属され、その後も同センターとの密な協力関係の中から、様々な作品を生み出し続けている(公式ページはこちら→http://perso.orange.fr/p.jodlowski%20/)。

テナーサクソフォンとライヴ・エレクトロニクスのための作品「Mixtion(混合)」は、パリ国立高等音楽院教授クロード・ドゥラングル Claude Delangleの委嘱により、同音楽院サクソフォーン科の卒業試験のために作曲された。作品のコンセプトは、「異質な素材が寄せ集められることで、全く新しいものが生み出されていく」というもの。16分間の演奏時間の中に、数え切れないほどの様々な音素材…人の声、生活騒音、シンセサイザー音、そしてサックスの音…が構造を成して詰め込まれている。

初めて耳にしたのは、2006年7月に大泉学園ゆめりあホールで行われた、ジェローム・ララン Jerome Laran氏のリサイタル「サクソフォーン旋風」。このときが日本初演だったとの事だが、氏の熱演と相俟って、大変感銘を受けたのを良く覚えている。コンサートの数ヵ月後、訳あってララン氏から送ってもらったCD「Paysages Lointains」にも収録されており、好んで聴いている。

一聴すると、なんだかワケノワカラナイ、ぐしゃぐしゃな音楽?に聴こえるのだが、何度か聴いていくうちに徐々に頭に曲全体の構造が刷り込まれてゆき…すると、実に面白い曲だ、ということに気付かされると思う。一見ばらばらな音素材が、一点の集約に向かって解体・合成を繰り返しながら突き進む様は、何度聴いても楽しいものだ。また、中核部分に出現する、ロックのような刻みのグルーヴ感なんて、実にかっこいいではないか。作曲家自身の言葉を借りれば、この作品には音素材の「錬金術」を垣間見ることができる。

演奏は、あらかじめ録音されたテープの部分と、PC上で動作するアプリケーションプログラムを利用しているリアルタイムでサクソフォーンの音にエフェクトをかけていくという、2つの部分が混在しているようだ。楽譜の練習番号に沿って、ペダル等を使ってアプリケーションの動作を切り替えていく、という演奏方法が一般的であるとのこと。Edition JobertもしくはUnited Music PublishersからCD2枚(DVD)+楽譜という形で出版もされているようだ。うーん、ちょっと欲しいかも。

2007年11月23日、ドゥラングル教授のリサイタル@静岡に、プログラムとして組み込まれている。日本ではまだまだ知る人ぞ知る、という感じの作品なので、まだ聴いたことのない方は、ぜひどうぞ。私も静岡まで聴きに行きたいぞ(行くかも)。

どーでもいいが、曲の始まりの部分がピンク・フロイドの「狂気」と似ているなあ…、と思うのは自分だけ?

日本サクソフォーン協会入りました

日本サクソフォーン協会に、B会員として入会。今日会員証と書類が送られてきた。せっかく入会したことだし、今年のサクソフォーン・フェスティバル、何かで参加してみようかな…。

2007/05/03

GWの予定

ゴールデン・ウィーク中のスケジュール。つくば芸術祭関連のイベントを筆頭に、様々な演奏予定があります。わたしゃ基本的にテナーサックスを吹いております。みなさまお暇がありましたらぜひお越しください。

・5/3
12:00~ つくばセンター ライト・オン前
High-Jinks Wind Orch.ライヴ
(つくば・まちかど音楽市場音楽祭2007イベント)

・5/4
13:00~/15:00~ つくばセンター aiaiモール周辺
天久保オールスターズバンドライヴ
(自主ライヴ)

・5/5
#この日は「下倉ドリームフェア」関連のイベントである、原博巳さんのクリニック&コンサートと、トルヴェール・クヮルテットのコンサートを聴きに東京へ。hrpk音楽隊を聴けないのが残念…。
原さんのミニ・コンサートのプログラムは、バッハの「無伴奏パルティータ第2番」とベリオの「セクエンツァVIIb」だそうな。

・5/6
12:30~ つくばセンター aiaiモール石の広場
High-Jinks Wind Orch.ライヴ
(第23回つくば芸術祭イベント)

16:30~ つくばセンター aiaiモール石の広場
芸術祭参加団体コラボレーション企画 筑音×吹奏楽×和太鼓 etc.
(第23回つくば芸術祭イベント)

…その他、知り合いのバンドがつくば芸術祭のイベント参加しているので、そちらもお知らせしておきます。

・5/5
13:10~ つくばセンター aiaiモール石の広場
はらぺこ音楽隊ライヴ
(第23回つくば芸術祭イベント)

・5/6
14:30 つくばセンター aiaiモール石の広場
あごひげ楽団(筑波大学吹奏楽団?)ライヴ
(第23回つくば芸術祭イベント)

2007/05/01

検索機能追加

このブログ内の検索を行うことができる、検索ボックスを組み込んでみた。diary.kuri_saxoのほうにチェックを入れてあげると、ブログ内の記事検索を行うことができる。自分でも、どんな記事を書いたか忘れてしまうことはあるので、ちょこっと便利。いろいろ検索して遊んでみてください(笑)。

たとえばテキストボックスに「デザンクロ」と入れて、diary.kuri_saxoにチェックを入れて、検索してみると…68件ですか。そんなにいろいろ書いていたっけ(月別・ラベル別・記事別ですべてクロールされているため、多めに出るようだ)。また、ふつうのGoogle検索で「デザンクロ site:http://kurisaxo.blogspot.com」と打ち込んでも、同じ効果。